サブプライムローン問題は米国バブル崩壊の序章

池田信夫blogに、http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/7cc6f9c4437bd47c577b35b8cedb229a:Title=「なぜ日本は失敗し続けるのか」というエントリーがあり、今週のEconomist誌の日本特集の要約紹介がある。

いま世界の注目は、日本に集まっている。それはその未来に対してではなく、過去に対してである。サブプライムローン問題は、1990年代に日本の経験した不良債権問題に、性格も規模もよく似ている。そして日本は、考えられるかぎり最悪の対応によって、その危機を10年以上も引き延ばし、経済を壊滅させた。アメリカはこの教訓に学び、すばやい償却や金融緩和などによって、危機を早く克服しようとしている。

しかし当の日本には、あまり危機感が感じられない。小泉政権によって日本は改革の方向に歩みだしたようにみえたが、その終わりとともに元に戻り始めている。その最大の原因は、政治が脳死状態に陥っていることだ。これについて当誌の記者が、自民党の大島国対委員長に取材したところ、彼は「何かいい対策はありませんか?」と逆に記者に質問した。

長年の低金利と円安によって輸出は回復し、設備投資も堅調だ。しかし問題は、その投資収益率がアメリカの半分にしかならないことである。だから低金利政策で日本経済を回復させようとするのは間違っている。それは消費者の金利収入を奪うことで、消費を減退させる効果のほうが大きい。日本の家計消費のGDP比は、主要先進国で最低だ。

しかも政治家や官僚は、ただでさえ低い家計支出をさらに低下させる政策をとっている。昨年、日本の政治家はサラ金の上限金利を大幅に引き下げ、消費者金融業を壊滅させた。また建築基準法の改正にともなう過剰規制によって住宅投資は激減し、GDPを0.6%も引き下げた。

日本に必要なものは明白だ――市場を世界に開放することである。特に重要なのは、資本市場の改革だ。外資規制を撤廃し、労働市場を柔軟にして、海外の投資家にとって魅力的な環境をつくる必要がある。ところが日本政府の高官は株主をバカよばわりし、日本の老朽化した企業を海外の投資家から守る制度改正に熱心だ。

Economist誌の本論は、上記の文章の続きで日本の政治が悪いという話になり、池田信夫氏のコメントは「日本のメディアの程度の低さ(それは政治といい勝負だ)」という話になっていく。日本の政治・マスコミが悪いというのは、私も賛成だ。

そして、私のコメント。というか、ここからが本論。上記の話の前提となっているEconomist誌の「アメリカはこの教訓に学び、すばやい償却や金融緩和などによって、危機を早く克服しようとしている。」っていう下りを読んで、それは全く違うだろうと思った。

下記の統計を見ると、米国の住宅着工件数は下げ止まり感を見せているが、最低水準。

参考情報:http://www.daikiusa.com/indicators/past/housing_starts.html:Title


住宅価格については、下記が参考になるだろう。グラフや数値を見た感じから、まだまだ下がるトレンドにあるように思える。

参考情報:http://jp.ibtimes.com/article/biznews/071210/14929.html:Title
参考情報:http://www2.standardandpoors.com/portal/site/sp/en/us/page.topic/indices_csmahp/0,0,0,0,0,0,0,0,0,3,1,0,0,0,0,0.html:Title


米国の住宅事情に関連して、下記のようなことが言えると思う。

  1. 住宅ローンの不履行 → ローン住宅の競売 → 住宅市場下落という悪循環がおきている。
  2. 住宅価格には下方硬直性がある。人生を賭けた大型資産で、かつ1軒1軒が違う商品だから、思い切って価格を下げて売る決心がつかず、売れない高い値段が維持されてしまう。まだまだ住宅価格は下がる。
  3. ローン破綻しなくても、投資目的であったり将来転売を考えていた人に取ってみても、住宅の資産デフレ効果が大きく、消費抑制に走る。
  4. 日本のバブルと同じく、転売益で贅沢な暮らしをしていた人が消滅して、米国消費全体が冷え込む。
  5. 上記の結果として、米国景気が悪化して、収入減や離職した人が増え、株価も下落し、低所得者に限らず住宅ローンの不履行者が増えるという悪循環が発生する。

おそらく1.〜4.までは間違いない。現状起きているとも言えるし、今後も、米国経済に数年間という単位で、一定の不況というかブレーキが踏まれた状態が続くのは間違いないと思う。問題はどこまでのレベルで「5.」が起こるかということだ。

日本のバブル崩壊と比較すると、米国の方が早く金利を引き下げ、また企業がROE重視経営のため土地資産をほとんど持っていなかったり、商業地の地価までがバブル〜崩壊していないという面で、米国の方が被害が少ないと言える。他にも現時点では株価暴落にはいたっておらず、株の持ち合いという事情もない。また、確かにEconomist誌の言うとおり、金融企業が早期に償却したという面もあるだろう。ただ、日本が苦しんだのはサブプライムローン問題に相当する「住専」の処理問題だけでは決してない。

日本は家計貯蓄率が高く、企業も内部留保が多く純資産を持っており、輸出産業が重厚で、海外資金にあまり頼らない経済運営であったという面で、危機は10年に及んだかもしれないが、大崩壊をせずに耐えた面があると思う。

(そのツケは、国家財政面を含め、今の若年層に先送りされたのは腹立たしいし、大崩壊してからV字回復した方が好ましかったという考え方もあるが、それは別の話)

米国の弱点は、サブプライムローンに代表されるように家計債務も過剰で、企業がROE経営で純資産をあまり持っておらず、経済全般が海外資金の流入に頼った運営であること。金利を下げるということは、ドル暴落危機を呼び込み、結局キャッシュは海外へ流失(というか回帰)して増えず、投資も減って景気は冷え込むが、輸入品を中心にインフレになるスタグフレーションになる危険性が大きいと思う。そして、家計債務が多く企業純資産が低いということは、個人破産や企業倒産に達する閾値が低いということでもあるし、破産や倒産までいかなくてもROE経営なので企業収益が落ち込めば敏感に株価は下がるし、個人の株式投資比率が高いということから株価不況入りの危険はあると思う。そして、企業のレイオフの動きが活発化すれば、先の「5.」の最悪形、住宅バブル大崩壊スパイラルに火がつく危険性は高いと思う。

米国株価の参考情報(S&P 500 INDEX 1950〜現在):http://jp.moneycentral.msn.com/investor/charts/chartdl.aspx?C6=2008&D4=1&ViewType=0&D5=2&ShowChtBt=Refresh+Chart&D3=0&Symbol=%24US%3aINX&C8=2008&DateRangeForm=1&CE=0&C5=2&C7=2&ComparisonsForm=1&C9=2&DisplayForm=1&CP=0&PT=11:Title


今は、米国の企業や投資家は本国での損失補填のために海外の投資資金を引き上げていて、米国へ投資していた他国の企業や投資家も米国から資金を引き上げている状況にあると思う。例えるならば、玉入れの得点集計で赤組も白組もカゴの中には玉はある状態で玉を出し合っていて、為替相場は激動はしていない。ただ、米国利下げが続き、どうもサブプライムローン問題が一過性のものじゃないぞとなってくると、いままでは流入超過だった米国への投資資金は逃げ出すものの、もはや米国へ回帰する資金はないので、大ドル安になると思う。

金の高騰とかを見ていると、単に余剰資金の流入という面もあるだろうが、この米国バブル崩壊シナリオの発生率は結構上がっていて、ワールドワイドで見れば気付いている人が結構いるのではないかと思う。

参考情報:http://www.sumitomo-gold.com/price/graph3.html


私はFX(外国為替証拠金取引)もしなければ外貨預金も持っていないが、(スワップ金利目当てで北米通貨を持っている人は危険だと思う。また、米国経済がコケれば日本経済も不況入りは間違いないだろうから、今しばらく米国景気の先行きが見えるまでは株のポジションを絞ったり、リスクのある投資行動として独立起業を実行に移すようなことは控える方が良い思っている。

この米国景気悪化が長期化 → 米国利下げもキャッシュ増えず → むしろドル安から資金逃避とスタグフレーション → 米国経済クラッシュ という読みは筋が長いのでどこかでストップがかかる可能性があるのと、経済素人の私が考えたので外れていればいいのだが、どうだろう。反対意見があればぜひ聞いてみたい。

でも経済が本当に壊滅するのは米国経済の方かもしれないし、そうなるのであればEconomist誌はEgoist誌に改名した方がいいだろう。

サブプライムローン問題その後の関連トラックバック

id:econ-econome氏は、エコノミスト誌にも竹森俊平教授の論説が掲載されたReinhart and Rogoff(2008)のレポートの概要と感想を掲載。基本的には利下げ効果や景気対策からの景気回復に賛同
http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20080129/p1


◆90年代前半「住専を処理すれば終わり」と知り合いのMOF関係者は言っていたが、むしろ住専後が本番であったとのコメント。by bank.of.japan
http://hongokucho.exblog.jp/6610951:Title


◆Garbagenews.comによる「サブプライム問題」まとめ。主要金融機関の損失額のリストアップも掲載。必ずや状況の改善が図られ、問題は解決されるが、その時期は分からないというコメント。
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/12/post_2896.html:Title


◆Gigazieの「サブプライム問題」まとめ
急速な円高や全世界同時株安の原因、「サブプライム問題」とは? - GIGAZINE