起業する人に限り賃貸住宅が絶対お得な3つの理由

よくある賃貸派、持家派のどっちが得かという論争。これは本質的には長期の不動産価格や金利の相場動向と、個人のライフスタイルによって決まる話なので、一概に結論が出るはずがない。ただ私は、いつか起業をしたいという夢があるので、完全な賃貸派だ。

いつか起業を志す方に賃貸がお勧めできる理由は3つあるが、まずは「税務的な経営ノウハウ」とも言える一番複雑なものから順に紹介したいと思う。


この税務ノウハウは「借上社宅」(借り上げ社宅・借上げ社宅とも表記)と呼ばれるもので、個人の家賃に相当する分を給与として払わずに済むため個人の「所得」が下がり、大きな金額の所得税・住民税の節税が実現し、各種社会保険料の計算の元になる標準報酬月額も下がるため社会保険料の支払いも大きく下がるという節税テクニックだ。

(ちなみに、会社としては社宅費であっても給与や役員報酬であっても損金で経費にできる。社会保険料は労使折半なので会社分の社会保険料負担も減るというメリットまで出る)

具体的な方法は、給与額(役員報酬)を減らす代わりに、会社が賃貸住宅を借りて社宅として提供する形を取る。

大事なことは会社(法人)が不動産賃貸契約の借主になり、それを社員や役員に社宅として供与すること。あとは税務上で給与扱いになってしまう各種条件をできるだけ避けた金額を考えて、社則などの明確な根拠があれば良いと思う。ただ私も専門家ではないなので、詳しくは本エントリー末尾のリンクを参照したり、本当に起業した際に税理士さんに相談してみて欲しい。

大雑把な計算としては、家賃12万円相当が会社負担の借上社宅を借りた場合で、所得税で適用されている最大の累進税率20%、住民税10%である場合*1で、税金だけで年間43万強の節税になる。

そして、これに労使双方の社会保険料を加算すると総額では1.5倍ぐらいの金額になると思うが、この作戦は、持ち家に住んでいる場合に使えない

ちなみに、このような税制が生き残っている理由は、公務員に提供される立派な官舎を「給与扱い課税」されないようにしているという説もあるが、起業して社長になったら、会社がほぼ全額負担する借上社宅制度を作って、活用しない手はないと思う。

(ちなみにこの仕組みは社長だけでなく、社員にも適用される。急に京都へ本社移転した「株式会社はてな」は、おそらく使っているのではないかと思うし、末尾リンク参照のライブドアでも、半額会社補助という形での借上社宅制度があるようだ)


つづいて2番目の起業家に賃貸がお勧めな理由は単純で、賃貸の方が収入に応じて簡単に切替可能だから。起業家というのは大きなリスクを取る不確実な職業なわけで、ものすごく貧乏なスタートアップを体験したかと思えば、成功して大金持ちになる可能性も秘めている。一見順調に見えても、いつ大ピンチが訪れるかも分からない。

持ち家を持った状態で事業の経営が悪化した状態というのは、モノポリーというゲームを知っている方ならば、その終盤戦をイメージするといい。大きな支払いが発生した場合、家は半額で処分することになり、土地も抵当に入れて、悲惨な状態だ。モノポリーでは土地や家は収益の源泉だが、起業家にとっては違うはずだ。だから身軽な賃貸の方が絶対にいいと思う。


3番目の理由は、もっと単純。起業して会社を興すには、資本金が必要。自分の会社を経営しようと思ったら最低でも株式の過半数を抑える必要があり、ベンチャーキャピタルリスクマネーを呼び込むとしても、相応の資本金がないと経営権を維持できない。他にも事業は上手くいっているのに運転資金が足りなくて黒字倒産するケースもあり、あと少し資金があれば成功していたのにというケースでは悔やんでも悔やみきれないはずだ。

そういった意味で、スタートアップ途上の会社の社長が住宅ローンを返済中の持ち家なんて意味不明だし、ローンがないと仮定しても、持ち家を担保に借金するよりも、賃貸に住んで、キャッシュを多く持っていた方がいいに違いない。


不動産というのは、有価証券と違い、急に処分しようとしても換金できなかったり、無理に売ろうと思っても安く買い叩かれたり、また税金や仲介料などの取引コストが高いという性質があるので、ここに書いたことは真理だと思う。経営者の方には「そんなの常識ーパッパパラリラ♪」かもしれないが、知らずに起業を志しつつ家やマンションを買っちゃうとバカを見るので、日本中でほんの数名の方でもいいので、このエントリーが参考になってくれると嬉しい。


「借上社宅」関連リンク

◆[http://www.hokenss.co.jp/solution/s_costdown2.html:Title
ここの説明が図解や表入りで一番詳しく理解しやすい。オススメ。


http://www.dreamgate.gr.jp/fastnavi/tax/howto/avoidance1/2007073010/:Title
全体的な流れを解説。「税務上実際の家賃の50%を負担しなければならない場合もあります」が気になるも詳しい解説はない。


http://www.tabisland.ne.jp/explain/kyuyo/kyuy03_4.htm:Title
上記からもリンクされている補足情報。この文章が正しければ、132?以下の木造住宅か、99?以下の木造以外の住宅にすめば、税務上の家賃50%負担が回避される模様。

*1:累進税率20%、住民税10%は控除額にもよるが、税引き前で年間収入が700〜1000万円ぐらいの人が対象になると思う