ワーキングプア/人事雇用【3】

起業するための情報収集半分、また他の視点も半分、人事雇用という分野には幅広い興味があって、いろいろと本も読んでいる。

本書は2006年11月に刊行された新書だが、今の日本の雇用情勢の底辺を知るのには良い1冊だと思うので、人事雇用関連の1冊目として紹介したいと思う。

ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る (宝島社新書)

ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る (宝島社新書)

本書を読んで、まず感じたのが、論理的に説明している箇所も多いのに、読みやすい文章で書かれているかということ。


ただ、一方でデータ提示にはいくつかのバイアスが仕掛けられていて、例えば生活保護水準は「世帯」で東京都のデータを元に194万円強としているのに対して、ワーキングプア定義の200万円は「個人」の「所定内給与(残業代・ボーナス除く)」で計算していて、日本全国で男女合計546万人*1という計算をしている。これを元に「労働人口の1/4が生活保護水準の給与」というのは、「東京の生活保護世帯vs.全国個人(残業・ボーナス除く)」の対比の結果であり、そのまま受け取ってはいけない。

感覚的には地方の一般事務職で、所定内給与が200万を超えるというのは、相当厳しいハードルだが、これがワーキングプアかと言われると、結構気楽に働いて、贅沢にパラサイトシングルしているケースもあるだろう。

ただ、続いてデータ提示がある、男性労働者を中心にワーキングプアの実数や比率が増加している傾向(p20,21)は指摘の通り問題で、ワーキングプアが増加しているという点で本書のテーマは重要だと思う。

本書のメインはワーキングプアの10個の具体例について、ワーキングプアに陥っている人への取材インタビューを交えて、紹介していることだ。その他は、今となっては一般的に知られていることが多い感じもするが、先に述べたとおり、分かりやすい文章でワーキングプア周辺の雇用関連のトピックスがバランスよく紹介されている。

インタビューを踏まえた具体例はどれも興味深いものばかりで、実際にどのような経緯でワーキングプアになってしまっているかも分かり、いろいろと参考になる。

私自身も今は正社員だが、もし30代後半とか40代で起業して、失敗して、その後も上手く再就職できなければ、ワーキングプアになっている将来という可能性もあり、そうなった場合の状態をイメージできたような気がする。

(もちろん、そんな将来は全力で回避だ。)


他に共感できるところを1つ挙げるとすると、働きすぎの正社員は心の「ワーキングプア」という節(p111)がある。確かにこれは私も強く感じる。正社員と非正規雇用の境界線が深すぎて、そしてバランスが悪いのだ。

ただ、一方で小泉構造改革による自由主義が、このような不平等を生んだというのは、私は全く違うように思える。

雇用の流動性が低いのに大不況が来たから、リストラ対象の層と、新卒採用にしわ寄せが来ただけであって、もしも小泉構造改革がなければ、もうちょっとワーキングプアも深刻になっていただけに思える。

(p183)
機会の不平等をなくし、結果の不平等を誰もが納得して受け入れられるようにするためには(中略)スキル・アップに応じて非正社員から正社員への移動ができる柔軟な体制を作ることが重要なのではないか。

これは本当に重要なことで、企業努力も必要だと思う。ただ、この「機会の不平等をなくし、結果の不平等を誰もが納得して受け入れられるようにする」を徹底するということは、「機会の不平等」を最も嫌う米国に習うということであり、道を誤ると、本書の冒頭(p5)でも紹介されているが、3700万人のワーキングプアが発生している米国と同じ道を歩む危険性もあると思う。

このテーマについて書きたいことは多いのだが、どちらかと言えば問題解決よりも問題提起をしている本書の書評としては、ここまでにして別エントリーで書きたいと思う。

*1:賃金構造基本統計ベース