後期高齢者医療制度に賛成してみる

河野美代子氏という産婦人科医の方の「日本は本当に姥捨て山になる。」のホットエントリーを見て、ちょっと疑問に思った。

産婦人科医という職業には敬意を感じるが、今回のエントリーはかなり偏っていて、同調しているブクマコメントも多いので、バランスを取るために反対意見を書いてみたいと思う。

(本当は、ブクマコメントしようと思ったけど100文字じゃ書けなかった)


タイトルの「姥捨て山」と関連して、一番おかしいと感じたところを引用する。

http://miyoko-diary.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_cb2c.html:Title

 しかも、もっと大変な数字がある。今、厚生労働省は、療養型の入院ベットを減らそうとしている。今後5年間で25万床から15万床に。医療費の伸びを抑えるために、入院をへらそうというものだ。で、厚労省の人が作った資料にすごいのがある。2030年、私たち団塊の世代のものが寿命を迎えて、約165万人が死ぬ時期である。病院のベットで死ぬ人が89万人。自宅で死ぬ人が20万人。介護施設で死ぬ人が9万人。そして、これがすごい。「その他」が47万人との数値を出しているのだ。「その他」とは何ぞや。病院でも、自宅でも、施設でもない。参考までに、2005年の死んだ人の割合の中で「その他」とは、路上や公園などで死んだ人のことを指している。行き場のない医療難民が将来、年間47万人出るという数値だ。まったくもう、なんということを目指しているのだろうか。

 厚生労働省、政府、国会議員みんなおかしい。こんな法律をつくり、強行採決で通し、実行。一体、何という政治なのだろう。調べれば調べるほど腹立たしい。


まず、話の核心とも言える「厚労省の人が作った」すごい資料が、どんな資料であるか不明なままで話が進んでいく。しかも、『47万人の「その他」』を「路上や公園などで死」へミスリードしているように思える。

10万床の削減といえば凄い数なので、私も簡単に調べてみたが、少なくとも「路上や公園」を増やそうとしているわけではないようだ。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info02b.html:Title

上記からリンクがある、「療養病床転換ハンドブック」p5より引用する。

介護療養型医療施設の主たる転換先としては、以下のものが考えられます。

  1. 老人保健施設
  2. ケアハウス
  3. 有料老人ホーム
  4. 高齢者専用賃貸住宅
  5. 認知症高齢者グループホーム
  6. 特別養護老人ホーム
  7. 在宅療養支援拠点

厚生労働省は、療養病床を廃止転換し、介護系施設を増やそうとしているように思える。これに関しては新聞記事を鵜呑みにはできないが、下記のような記事もあった。

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/kaigo_news/20051222ik03.htm:Title

 厚生労働省は21日*1介護保険が適用される「介護療養型医療施設」を、2011年度末で廃止する方針を明らかにした。医療や看護をほとんど必要としない入所者が約半数を占め、給付費の無駄が指摘されているほか、医療保険が適用される療養病床と機能が似ていることが理由。


しかし、約110万人(2007年推計)の年間死亡数が、165万人の規模に増えるのはほぼ間違いないわけで、終末を迎える高齢者の場所や、終末医療の財源やマンパワーをどう確保するかということは、大きな問題だ。

ただ、それをどうするかを語るのは官僚だけでなく政治家の役目であり、またマスコミの役目だと思うのだが、それをなさずに単に老人負担増反対とか、「後期高齢者医療制度廃止法」*2を出すというのは、幼稚とも言えるのではないだろうか。

この問題は、元に戻せば上手く行くという性質のものではないと思う。


後期高齢者終末期相談支援料」については、私も異常だと思うし、基本的に河野氏の意見に賛成だ。ただ、延命治療や末期治療方針についての意思表示は、健康なときにやろうと思ってもなかなか家族を含めて同意を取ることは難しいのではないだろうか。

また、いざ死が近いかもしれないという段階になれば、本人も家族も意思が変わるかもしれない。医療従事者が治療方針について、十分な説明をして、それに対して診療対価が与えられるような仕組みは、本人と家族両方が希望した場合に限れば、良い仕組みではないかと思う。

もちろん、それを75歳以上の高齢者に限定するのは意味不明だし、医療費を削減するのが主眼ではなく、QOLを高めるという目的で実施する必要があるだろう。


なお、私は後期高齢者医療制度の老人医療負担増には賛成だ。セーフティーネットの強化は必要だが、高齢者の医療費抑制や、お金を持っている高齢者への費用負担を強化して貰わないと、ただでさえ苦労している若者の負担が増えすぎて、さらに少子化がすすんで、日本は衰退する一方になると考えるからだ。


反論は以上だが、これでバランスが取れて、スッキリしたのは私だけだろうか。


P.S.
河野氏から続きのエントリーも上がっていたのだが、その文中にあった、『47万人の「その他」』の根拠が「厚生労働省老人保健課長 死亡する場所」で検索すると見つかるような記述があったが、私には見つけられなかった。できれば、関連情報のURLを明記して欲しいと思う。

また、人口動態白書の「死亡する場所の推移」の値を参照したとあるが、ここには過去の数字だけが載っているのであれば、再度『47万人の「その他」』を「路上や公園などで死」へミスリードしているように私には思える。

*1:2005年12月21日の記事

*2:後期高齢者医療制度を廃止する等医療に係る高齢者の負担の増加を回避する等のための健康保険法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案」っていうのが法案名