設立3年以内にリッチな節税天使を見つけよう/平成20年新エンジェル税制

池田信夫氏に釣られて、前々回のエントリーで新ベンチャー支援策を妄想しているうちに思い出した。確認してみたら、強力なベンチャー支援策が、ごく最近始まっていた。


以前にエンジェル税制について調べて書いたが、例のガソリン国会の影響で平成20年度税制改正法案が3月中に成立しなかったので、新エンジェル税制については若干中途半端に終わっていた。

今回はその補足になるが、このエンジェル税制の「抜本的な改正のポイント」と「節税効果」を中心に間単に説明したいと思う。

抜本的な改正になる新エンジェル税制

この新制度の利用で得られる直接のメリットは、一定の条件を満たす範囲で、個人投資家(エンジェル)がベンチャーへ投資した場合に節税になることだ。起業家側からみると、この制度のおかげで出資者が増えるという点で、間接的にメリットが出る。

従来のエンジェル税制では、ベンチャーへの投資時点としては「株式売却益課税」のみを対象した減税だったので、株式売却益を出している/出せる人のみが対象だった。しかし、今回の改正により「所得税の所得控除」も条件さえ満たせば選択可能となり、「収入を得て所得税を払っている人全員」が節税メリットが得られる対象者へと変わっている点で、大幅な拡充になっている。

なお、旧来のエンジェル税制では、ベンチャーが成功して、そのベンチャーの株式を売却した際の譲渡益課税について、それを半額に減免する形での制度があったが、これは廃止になり、平成20年4月30日までに取得済みのベンチャー株を対象とした経過措置のみに変わっている。

この部分は減税枠としては大きな撤廃かもしれないが、成功する確率が低いベンチャーへの投資を促進するという意味では、今回改正は明らかに良い方向に変わっていると思う。

(以下、末尾紹介の経済産業省の資料で「優遇措置A」として記載されている「所得税の所得控除」を「新エンジェル税制」と呼ぶ。なお旧来のエンジェル税制から存在した「株式売却益課税」の繰り延べは「優遇措置B」として残っているが、解説は省略したいと思う)

エンジェルさんの減税効果はいかほど?

新エンジェル税制での「所得税の所得控除」は、一定要件を満たしたベンチャーへの投資額とほぼ同額が「所得控除」される。所得税について敏感な方*1だとピンと来るかもしれないけど、所得税累進課税なので、所得額が多いほど「所得控除」によって減税される額が大きく変わってくる。

この新エンジェル税制での「所得税の所得控除」額は、下記の通りだ。


「上限が投資額1000万円or総所得金額×40%のいずれか低い金額」から「5000円を引いた額」

つまり、最大値として2500万円以上の課税所得がある人が1000万円のベンチャー投資をした場合に、999.5万円の所得控除が受けられるということになる。仮に課税所得が2500万円の人が1000万円の新エンジェル税制対象のベンチャー投資をした場合を計算してみたら、約378.8万円の節税になった。*2

新エンジェル税制対象のベンチャー投資額と、その投資額に対して節税になる割合を、ざっくり計算してみたところ下記の表のようになった。収入が多くて税金に困っているような人こそ、エンジェルになった際の効果が高いのが分かると思う。

↓収入・投資額→ 200万円 400万円 600万円 800万円 1000万円
400万円 1% 0% 0% 0% 0%
600万円 2% 1% 1% 1% 0%
800万円 9% 4% 3% 2% 2%
1000万円 20% 10% 7% 5% 4%
1200万円 20% 14% 10% 7% 6%
1400万円 23% 20% 13% 10% 8%
1600万円 33% 28% 20% 15% 12%
1800万円 33% 33% 26% 20% 16%
2000万円 33% 33% 32% 24% 19%
2200万円 33% 33% 33% 27% 22%
2400万円 35% 34% 34% 31% 25%
2600万円 40% 37% 36% 35% 29%
2800万円 40% 40% 38% 37% 33%
3000万円 40% 40% 40% 38% 36%
3200万円 40% 40% 40% 40% 39%
3400万円 40% 40% 40% 40% 40%

なお、ここでは家族3名を扶養する想定で、大雑把に各種控除を計算した。所得控除は基礎控除38万円・配偶者控除38万円・扶養控除38万円×2・社会保険控除(=収入の1割、上限100万)・給与取得控除(=ちゃんと計算)を想定して、新エンジェル税制の計算式の5000円は誤差として無視した。なお、もうちょっと詳しい表は、「計算の途中経過・詳細のGoogleDocsスプレッドシート」で公開してみた。

ただ、この999.5万円の所得控除を受けた1000万円分ベンチャー企業株の取得価額は5000円で計算され、もしこの株式を買値と同額の1000万円で売却したとしても、結構な譲渡益課税(平成20年内10%、来年から多分20%。ただ「譲渡益課税の創業者の特例」が復活しIPO成功で売却する場合は半額で10%となるかも)がかかるという仕組みになっていると思うので、この点は注意する必要がある。

また、このエンジェル税制による所得控除は、所得税のみ認められている制度であり、住民税については残念ながら認められていない。*3

新エンジェル税制の対象となるための要件

新エンジェル税制の対象となるための会社側の要件や、エンジェルとなる個人投資家の要件は、かなり細かく制限されている。詳しくは末尾の参考資料のパンフレットの内容を確認して欲しい。大雑把に言うと創業3年未満の中小企業であることと、初年は開発者(研究者)が2名以上かつ全従業員の10%以内、2年目以降は、直前期の営業キャッシュフローが赤字などが条件になっている。

その他の要件は以前からのエンジェル税制と同じなので、以前に書いた下記エントリーが参考になるかもしれない。

なお、池田信夫氏は『特に「1円起業」や無担保融資で「ベンチャー育成」ができると思っている官僚諸氏』という批判もしていたが、ここらへんの仕組みは、ベンチャーのアーリーステージへの投資促進という意味で、個人的には「経済産業省さん、グッジョブ」だと思う。

エンジェル税制を意識した起業をする具体的な流れ

もし私がこのエンジェル税制を意識した起業をするとした場合、おそらく下記のような行動を取るになると思う。(これでOKかどうかは確認していないので、本当に実施する方は各管区の経済産業局に確認下さい)

  1. 会社設立前に趣味レベルや個人事業レベルで一定の助走をした状態から会社を設立
  2. 設立時に外部(特定の株主グループ以外)から1/6以上の投資を受け入れた状態でスタート
  3. 開発者2名を擁する条件を満たす(社長とCTOでOK?)
  4. エンジェル税制事前確認書交付を受ける(毎年×3回)
  5. ある程度給与はしっかり払って初年度と2年目は営業キャッシュフローを赤字にする*4
  6. 3年以内に、なるべく年収1600万円以上(税引き前)のエンジェルさんを見つけて、節税メリットが大きい状態でご出資頂く。

もちろん、一番難しいのは「6.」だと思う。年収がたっぷりあって税金で困っている方、もしいらっしゃいましたら、ぜひぜひ「お友達からお付き合い」を頂けると嬉しいです。って、あまり変なこと書くと出資法違反になってしまうので、このヘンで。

disclaimer

私は税理士でも公認会計士でもないため、上記はあくまで参考情報として、実際の投資行動をとる前に正確な情報の再確認を推奨いたします。また計算についても、なるべく正確に実施したつもりですが、間違いがありましたら申し訳ありません。

なお新税制の詳細についても確認できておらず、経済産業所のエンジェル税制のページと、同ページ内から参照できるパンフレットのみを参照したので、間違いがある可能性があります。

(時間がたてばここで法令が確認できるかもしれませんが、執筆時点では確認できていません。)

*1:私はあまり稼いでいない割りには、所得税についてはめっちゃ敏感。

*2:課税所得が2500万円の所得税は720.4万円。課税所得が1500.5万円の所得税は約341.6万円

*3:住民税について認められていないことは、ここの留意事項として記載あり

*4:営業キャッシュフローを赤字にするだけだったら、手形支払いで受託開発を受けるとか、広告を含めた経費を多めに使うとかいろいろ手段はある。あまり赤字を続けると今後の銀行融資とかが不利になるかもしれないので、スレスレの線がいいかも。