秋葉原の無差別大量殺傷事件についての7つの雑感

ちょっと普通とは違う視点も半分ぐらい交えて、例の事件の雑感を7つばかり語ってみたい。
(これで一区切りつけて、起業ブログに復帰したいな)

1.あまりにも非道。あまりにも凄惨。誰でも良かった?

今回の事件は、あまりにも非道で、あまりにも凄惨だ。どうしたら人間がここまで凶悪になれるのだろう。車で撥ねて、そしてナイフで刺す。ほとんどは無防備な人間ばかり。それも数人の話ではなく10人以上の死傷者を出している。

絶対に許されることじゃないし「誰でも良かった」という動機で殺された方や、遺族の方の無念さは察するに余りある。今回の事件で、犠牲になられた方のご冥福を心よりお祈りする。

2.こいつ、フツーにどこにでもいそうなヤツなんだ

http://www11.atwiki.jp/akb_080608/pages/1.html:Title

上記のまとめwikiで6月3日から犯行当日6月8日までの、ケータイ掲示板への犯人と思われる人物の書き込みが全部読める。

犯人擁護とか、そういう心情は全く無い。でもブクマコメでも書いたんだけど「こいつ、日本中探せば何万人っていうオーダーでフツーにいそうなヤツなんだよな。そしてこんな他人を巻き込んだ悲劇じゃなくて、ニートや引き込もりになるやつが大半で、でも自殺者もいっぱいいるんだろうなぁ...。」と思った。

詳細はid:KoshianX氏がみっちりと書いてくれた。次の項目にも共通するんだけど、全く同感だ。

3.戸惑う「The rest of us」

マスコミを攻撃してみたり、オタク叩きやネット叩きへの防御シールドを張ってみたり、でもネットユーザの多くは基本的に上記「1+2」がリンクして、一歩間違えば、自分も同じ境遇で凄惨な事件の関係者になっていたんじゃないかと考えてしまうと思う。実際に私はそう感じた。

自分じゃなくても、ネット上の知人、ケータイ中毒の友人が、そうなっていたかもしれないと考えて戸惑う。凶行に出なくても、鬱病や自殺なんていう話であれば、以前から世の中で頻繁に起きていることだ。

自分には家族や仲間がいるから救われていると感謝を感じた人もいるかもしれない。でも、中には、本当に同じように孤独な境遇の人も、同程度に不幸な人は、何万人という単位で、日本中にいると思う。

この「The rest of us」*1。ネットのヘビーユーザで、ネット上で身近に同じ境遇の人を感じているという広義では私のような人間も含まれるけど、そういった人々の心理こそ、私は気になる。

4.格差というラベル付け・格差を意識する精神性が悪いっていう意見ってどうよ

批判ばっかりというのは見苦しいと思う。そして、このブログでは「10年泥」の批判をしたばかりだったので、できれば順番として批判はしたくなかった。でも、前回エントリーで取り上げた内田樹氏の再掲文書は「ないわー」と思って反射的に反論をアップしてしまった。

犯人は、宗教や哲学で救えたかもしれない。自分は「負け組」だというような「自分の物語」を感じなければ、事件を起こさずに済んだかもしれない。実は内田氏の1つ前のエントリー「http://blog.tatsuru.com/2008/06/11_1020.php:Title」は、いいことを書いていると思っていた。

でも、私が批判した再掲文書を、このタイミングでアップするのは、見方によっては許しがたいと思う。同じように貧困と孤独の境遇にあり、事件で戸惑っている大勢の「The rest of us」に対して、「自分自身の考え方の問題だよ」そして「そのまま耐えろ」って長々と語っているようにしか取れないのだ。

そして、もちろん事実は違う。格差はラベルじゃなくてリアルだし、今も将来も期待が持てない工場派遣社員の境遇だったら、「物語の感受性」という精神性で犯人の問題点・相違点を語られるのはいいとしても、格差問題について救われる人間なんて、ほんの一握りいるか、全くいないかだ。

犯人に向けたメッセージは「The rest of us」にも届く。死刑になる確率が極めて高い犯人の重要性は既に低い。内田氏はそれを意識せずに、強者や格差論者*2に向けたメッセージかもしれない。でも繰り返しになるけど「The rest of us」が重要なんじゃないかと思う。

5.日本中みんな戸惑っているけど

日本中で「劇場型殺人」「心の闇」「どうして」といったことを凄く気にして、戸惑い、騒ぐけれど、それはきっと深層心理も含めれば犯人本人も分からないと思うし、答えはないだろう。

だから、ここを考えて理解しようと時間や精神力を使うのは、ほとんど無駄だと思う。

あまりにも非道で、あまりにも凄惨な事件が起きてしまった。こういう境遇の人が、こういう事件を起こしてしまったという、事実の理解でいいと思う。

あとは再発を防止策を真剣に考えるのが一番いいと思う。

6.一歩づつでも、社会を良い方向へ変えよう

「狂人はたまに出るよね。仕方ないよ」では、片付けたくない。

 町村信孝官房長官は11日午後の記者会見で、東京・秋葉原の無差別殺傷事件に関して「(派遣社員だった加藤智大容疑者の)身分上の不安定さが犯行に駆り立てた理由であったのなら、できるだけ常用雇用化していくという問題意識で考えないといけない」と述べ、労働者派遣制度の在り方を見直す必要があるとの認識を示した。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008061100770:Title

閣僚レベルで「派遣見直し」の話題が出るのは大歓迎だ。あと、忘れないうちに書いておくけど、対岸の火事韓国の話だけど、下記記事にあるように「非正社員保護」を直接的に実施するような立法をすると、単に施行前にクビを切られるだけという事態になるので覚えておこう。>ALL・厚生労働官僚の方

■新法が招いた雇用不安

中小企業が臨時・日雇い職の雇用を減らしている背景には、非正社員保護法の適用を控えていることがある。

同法は勤続期間が2年を超える非正社員に正社員と同レベルの待遇を与えることを義務付け、非正社員の保護を目的にしたもの。だが、現実には人件費の負担が大きい中小企業を中心に、非正社員の雇用を避けたり解雇するという逆効果を招いている。

臨時・日雇い職の雇用数の推移は2001年以降、経済成長率と並行する形で増減を描いてきたが、昨年第2四半期(4〜6月)以降は正反対の方向で動いている。経済成長率(前年同期比)は昨年第2四半期の5.0%から今年第1四半期は5.7%と上昇傾向にある一方、臨時・日雇い職の新規雇用数は同期間、2,600人減から12万2,900人減と大きく減少した。
http://news.nna.jp/free/news/20080523krw002A.html:Title

(6/14追記)
コメント頂いた、「正社員の給料削減・正社員のリストラの推進等」を含めた派遣救済案を次のエントリーに掲載した。

http://d.hatena.ne.jp/T-norf/20080614/NeoNeoJPManagement:Title


あと内田氏だけじゃなくて、id:fromdusktildawn氏もはてブコメントで書いていたけど、自分の暮らしが惨めだと「感じる」という主観的心理こそが問題だと言う。確かにそうなんだけど、では、どうして惨めに感じてしまうのだろうか。

誰もが夢を持って頑張れる社会を実現するというのは理想だけど、そこまでを今の日本社会に求めるのは無理がある。でも、普通の人が、精一杯頑張れば、将来は普通に幸せな暮らしができる程度の希望を持てることは必要だと思う。そして、普通の暮らしって一般的になんだと言えば、好きな人と恋愛して、結婚して、子供を生んで育てていくことだと思う。*3

いくら世界平均からは突出していようが、派遣社員の給料で一生終わると思ってしまったら、結婚が非常に困難な現実があり、自動的に惨めになるし、格差を自覚してしまうのだ。だから、非正規雇用問題はメンタルではなくて社会的に解決しなければいけない問題だと思う。

こういうのは偽善かもしれないし、やっぱり落ちこぼれる人が出て、凶行がまた起こり、次なる犠牲者を出してしまうのかもしれないけど、何もやらないより、やった方がいいに違いない。


ところで、関連話題をもう1つ。今回の事件で、「恋愛」を問題視した意見をあまり聞かないけど、町村官房長官、ぜひ「恋愛が犯行に駆り立てた理由であったのなら、できるだけ恋愛していくという問題意識で考えないといけない」ということも検討してみて欲しい。

これはネタでもあるけど、実は格差の本質かもしれない。1つの要素だけを大胆に簡略化すると、こんな感じだ。*4

教育費高騰 → 女性が相手に求める高収入 → 格差・非婚 → 通り魔事件

恋愛や結婚の対象となるような、愛し愛されるようなパートナーがいれば、低収入でも、惨めさはあまり感じないだろう。

あくまで確率論だけど、上記連鎖は本気で存在すると思う。以前話題になった国立大学の学費が増えているのに、さらに増やそうという話は、実現してはいけない重要な格差政策の1つだと思う。*5

7.私の手は血で汚れている

こういう私の手も血で汚れている。私は正社員として働く恵まれた人間で、さらに派遣社員を雇っているマネージャの一人だ。今のところチームは業績を維持できているから、こちらから契約更新をストップした派遣社員の方は一人しかいない。*6

でも、その一人だって理由や形式はどうであれ解雇したわけだし、精神的に大きなショックを与えたに違いない。そして、正社員との給与格差であったり、将来保証という意味では、今なお歴然とした差が続いている。能力が高い派遣社員を優遇できたこともあるけど、これも全員ではなく一部に限った話だ。

業績を維持できなくなれば、派遣社員は契約更新できない。一方で、派遣社員の給与格差があるからこそ、収益が出て業績が維持できている。微妙なバランスだけど、結局その程度の生産性しか実現できていないダメマネージャーなんだ。

こんな文章を書いても、なんの贖罪にはならない。派遣社員の待遇を多少良くしても、差は歴然として存在し続ける。秋葉原で無念にも散った犠牲者の血で、私の手は汚れている。無能な自分にできることは少ないのは分かっているけど、これは忘れずに精進を続けたい。

*1:残された人々。「The Computer For the Rest of Us」は1984年に登場したMacintoshのコピーね。 参考:http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/mac_commercial.html

*2:格差論者ってGoogle検索すると内田氏のブログがトップで出るという意味不明なラベル

*3:私の世代だと「めぞん一刻」がコアイメージだ

*4:教育費だけじゃなくて、オタ化とかが原因の本質かもしれないけど、とりあえず

*5:ここは社会的にROIが高い投資だから、日本の将来のために、ぜひなんとかして欲しい

*6:理由はあったけど秘密。雇った総人数はそれなりに多いけど、正社員よりは少ないし、人数は秘密