公務員は少なすぎる/橋下知事の間違い

ここしばらく起業妄想ブログじゃなくて、政経ブログになっているような気もするが、気になるエントリーがあったので、もうちょっとだけ続けてみたい。

ところが最近知ったことだが、日本の公務員の全雇用に占める割合は諸外国に比べて実はかなり低いのだった。1994年のOECD調査によると人口一万人あたりの公務員の数は


日本:321人
フランス:1612人
イギリス:735人
ドイツ:678人
アメリカ:643人
イタリア:628人


 サミット参加国で日本より少ないのはカナダのみ、「小さい政府」政策を推進してきたアメリカやイギリスの半分以下だ。民間の賃金との差も調査対象国の中では最も低い水準にある。

http://sivaprod.exblog.jp/8888212/:Title

そう、私もこのOECDの数字は知っていて、違うことを考えていた。


まず、私は橋下知事の政策は大好きだが、確かにここで指摘が上がっている2点はおかしいと思う。

1つはイルミネーションにこだわっている点。ただ、これは今年度は8900万円の調査・トライアル費だけの計上で、橋下知事自身も試してみてイマイチだったら撤回すると宣言している*1。私はやるんだったら、大阪府を活性化させるという目的で、橋下知事が民間協賛や個人寄付やボランティアを募ってやればいいと思う。知事にはその能力があると思うし、特に本社を東京に移転した元在阪企業には、税収減への贖罪の意味も含めて働きかけるといいだろう。発祥地の活性化に協賛しないような高収益大企業に対しては不買運動も辞さないような市民プレッシャーをかけてもいいと思う。

大阪の御堂筋が、冬のパリのシャンゼリゼみたいになれば観光資源的にもインパクトはあるし、事業資金が集まるに従ってイルミネーションが伸びたり縮んだりすれば面白いだろう。そして、本当に大阪のシンボルとして経済活性化の効果が出ることが確認できるようだったら、そこではじめて税金を支出して大々的にやってもいいと思う。


そしてもう1つ。ここからが本題だが、非正規雇用者である「教務事務補助員」305人(350人という報道もある)の一律の雇い止めによる実質解雇。これは明らかに間違っていると思う。私は、先に引用させて頂いたsivaprod氏の意見とはかなりベクトルが違うが、この解雇には大反対だ。

引用部にあるOECD調査は、sivaprod氏も書いている通り単純比較はできない面はあるが、日本の公務員は優秀だし、これは公務員に限った話ではないが、日本人というのは一生懸命に働く人が多いと思う。そして一部の人たちは多くのサービス残業を厭わずに薄給で働いている面も多いと思う。

ただ、日本の公務員の問題は、人数じゃなくて高給取りであること。政策屋や法律屋を含めた専門職や、優秀なマネージャはもう少し高給でもいいんじゃないかと思うこともあるが、問題はワーカー公務員の給与が民間比較で明らかに高すぎることだ。

このことを証明している典型的なエピソードは「逆学歴偽装」事件だ。大卒を高卒と偽ってまで就職したいほど恵まれた待遇を約束している。一度雇われれば、テキトーに仕事をしていても一生安泰。一生懸命仕事をしている職員も多いので、公務員全体を悪く言うつもりは全く無いが、平均的に言えば公務員給与は何割という単位で安くして、むしろ失業率を下げるためにも何割か職員数を増やしたり、学生ボランティアや老齢ボランティアも活用して、特に教員や警察官の労働強度を下げることを考えた方が良いと思う。

あと、これは以前にも似たようなことを書いたことがあるが、人件費を削減するにあたって、新規採用を止めたり削減するという動きは組合や中高年には優しくて反対が出にくい政策だが、非正規雇用や年代別では異常に高い失業率で苦労している若年者に対して圧倒的に不利な政策であると言える。

そして実際にバブル以降に「採用減」で職員数を削減してきたから、35歳以下の職員が少ない一方で年功序列で高給を取っている職員が大量にいる。こういった職員を減俸したり、明らかに働きの悪い職員を切ることをもっともっと考えた方がいいと思う。臨時職員でクビが切りやすいからと雇い止めで「教務事務補助員」305人を一律解雇するより、問題がある職員を永久減俸(降格)する制度や、NTTのように50歳になったら実質的に賃金3割カットするような政策*2を実施した方がいいと思う。

ちなみに「教務事務補助員」の予算はたった12億円強だ。フルタイム勤務かどうかや労働強度は分からないけど、人数で単純平均して計算すると年俸400万程度の非正規職員だ。
http://www.pref.osaka.jp/zaisei/kaikaku-pt/fuan/html/jimukohyou/jimu-jigyo37.html

本来、何度も給与カットするのは組織運営上は避けるべきだが、50歳を超えるとほぼ平均給与月額が50万円(ボーナス4.5ヶ月して年収は825万円)を超え、実質的に減俸や解雇や子会社転籍等の仕組みがない日本の公務員は恵まれすぎている。実際に年功序列賃金を見直そうという動きもあるようだが、早期実施を期待したい。


・公務員人件費の国際比較(2005年9月30日、大和総研
http://www.dir.co.jp/research/report/capital-mkt/capmkt/05093001capmkt.pdf

そして上記資料のp6にあるように、日本の公務員給与は官民比較で見ると世界的に見て明らかに高い。雇用者報酬の官民比率は23カ国中2位、同平均は1.37に対して2.1と高い値だ。そしてこの官民格差は、同資料によると年々広がっている傾向も示されている。

公務員は少なすぎるのは事実だし、それで左翼系の方々が勢いづくのは正しい。でも、下記のような意見はどうかと思うし、論点が全く違う。

秋葉原での事件。
私には昨今の公務員叩きに興ずる人々があの事件の犯人に重なって見えて仕方がない。
自分が這い上がれないのならせめて幸せそうな奴らを引きずりおろして溜飲を下げたい、という蜘蛛の糸にぶら下がる人々。

安穏と暮らしている(ように見える)公務員を自分と同じような不安定な境遇に引きずりおろせば溜飲は下がるだろう。みんなで仲良く不幸になれば相対的に自分の不幸は軽くなる。そして相対的に軽くなった不幸を子や孫に引き継がせるのだろう、この国の人々は。
http://sivaprod.exblog.jp/8888212/:Title

橋下知事の支持率が高い理由を、そう解釈するのは自由だが、公務員給与を維持して国公債負担を増やして、これ以上の不幸を子や孫に先送りするのは相対的ではなくリアルな不幸だ。

誰だって給与を下げられるのは嫌だし酷い仕打ちだと思うだろうが、1980年代までの日本が幸せ過ぎただけだ。この国が幻想に浸かっていた一番いい時期の民間給与体系をコピーしてほぼ維持している公務員給与体系を破壊しなければ、残念ながらこの国は滅ぶ。

ただ、単に給与を下げるだけでなく、一部の多忙な公務員の労働強度を下げることと失業対策という意味で、低賃金職員を増やすようなワークシェア施策を検討すべきだと思う。労働者人口は減ってきているので若干の雇用増で、低賃金労働者の需給は逼迫して、民間の低所得者層の給与を引き上げる効果も出ると思うが、いかがだろう。

*1:ソースはこちらhttp://sankei.jp.msn.com/politics/local/080531/lcl0805311155001-n1.htm:Title

*2:読んでないけど参考図書

NTT“50歳定年”リストラ11万人

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