米国金融危機から実態経済の危機へ(前編)

最近、興味深い経済関連のニュースや記事が多すぎで、それらを読むだけでも大変だ。その中で個人的に一番インパクトがあったのが、下記の米AIGへのFRBの追加融資の件。既に850億ドルの融資を設定しているところへ、さらに有価証券を担保に最大378億ドルの融資を行うという。

http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20081011AT2M1100P11102008.html:Title
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-34199820081009


この記事には「今回の追加支援措置はAIGがカウンターパーティとの決済を継続できるように行ったもの。」とあるが、最近良く耳にするCDS債務不履行スワップ)の決済を行うためと考えて良いだろう。これは、以前に想定された危機に対応するための9兆円相当のつなぎ資金では不足で、さらに4兆円弱のキャッシュの融通が必要になるという悪い状況が発生しているということになる。

破綻企業に対するCDS清算については、田中宇*1の記事http://tanakanews.com/081010CDS.htm:Titleが詳しいが、ファニーメイフレディマックは国有化もあり総額425億ドルで済んでいるものの、下記記事にあるリーマンブラザーズが10月10日に清算価格が決定し約3700億ドル、あと10月23日にワシントン・ミューチュアルと大型のCDS清算続く。

CDSの発行元も他社発行のCDSを買ってリスクヘッジをしている部分については重複カウントされる部分もあると考えられるが、それでもファニーメイフレディマック・リーマンブラザーズの3社で4100億ドル強の負担というのは強烈だ。

そして、このCDS清算に関連した問題は、ごく単純に考えて3つの悪循環があると考えられる。

  1. リーマンブラザーズのような大型のCDS清算が発生した際に、別のCDS発行元が決済不能となり経営破たんすることで、新たなCDS清算が発生するという連鎖が発生する可能性が高い。
  2. CDSの支払いに対する信用も下落し、いままではCDSに頼って社債を発行できていた企業が、社債での資金調達が困難になり、破綻する企業が増え、CDS清算が増える。
  3. CDS清算の決算資金のために、株や債権や土地などの資産の投売りが進み、価格を暴落させる。資産価格が下がり評価損が発生することで債務超過に転落して破綻する企業が出たり、CDS決済資金が不足する発行元も増える。また逆資産効果で消費が減退し、企業収益が悪化し、破綻する企業が出てCDS清算が増える。

この悪循環の最大の例となりそうなのが米自動車メーカー最大手GM。直近10月10日の株価の終値は「$4.89」ポッキリ。米の自動車産業については下記の英エコノミスト誌の翻訳記事も詳しいが、米ビックスリーは250億ドルの政府融資保証の救済融資を獲得することが決ったにも関わらずこの株価だ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/75


以下のダイヤモンド・オンライン他の記事によると、販売台数も前年比10.4%減、直近四半期の4〜6月期には155億ドルの大赤字。6月末時点で債務超過額が570億ドルだ。

http://diamond.jp/series/analysis/10040/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/166595/


最近、年商約25億ドル従業員3200名規模の販売ディーラーが倒産したようなので貸倒れも発生しているだろうし、GM傘下には金融会社GMACもあり、個人への貸出し減少・貸倒れ増加などもあるだろうし、業績が急に好転する要素はないと言っていいだろう。


そして、このGMの社債発行残高は2800億ドル。日本円にして約28兆円。結構前にジャンク債相当の格付けになっているが、これだけ信用を失った状況で、今の金融市場環境で社債の発行や新規融資は明らかに困難であり、仮に借りれたとしても相当の高利で、金利相当を稼ぎ出すことはもう無理だろう。

だからこそ「$4.89」という株価がつくのだと思う。そして、2800億ドルの社債を発行しているGMには、どれだけのCDSが発行されていて、いつどれだけの清算が必要になるのだろうか。冒頭で書いたAIGへの最大378億ドルの追加融資は、こういった企業破綻が続くということなのだと思う。

こういった点から、私も池田信夫氏も紹介しているIMFの世界経済見通しにある「今回の金融危機による世界経済の損失は1.4兆ドル」というのは、結構読みが甘く、連鎖する企業数と実体経済の推移次第だが、倍ぐらいにはなる可能性が高いと思っている。


ただ、これは個人的な見解だが、こういったトレンドを踏まえても、今、日本の株が売られまくっているのは、日本企業の将来悲観ということもあるが、上記のCDS清算のために欧米企業が投売りしているという面もあって、特にGM破綻したタイミングで連鎖破綻する企業がなければ、一旦株価が大きく反攻する場面もあると思う。

ちなみに、AIGも救済前はそうだったけど、GMも30社しかないダウ平均株価の構成銘柄。これを考えればダウ平均が下がる率に比べて、明らかに日経平均は下がり過ぎだと思うので、そろそろ日経平均(直近終値8,276円)のETFでも買ってもいいかなと思っている。

なお、サブプライム問題については、2月に例の英エコノミスト誌のJapainの記事の際に米国こそ痛いと一度書いていて地価の長期下落から米国経済の危機の大きさは予想していのだが、当時はこのCDSの問題については認識できていなかった。

ということもあり、続きのエントリーで、今回の米国経済危機について日本のバブルとの対比も交えて、もうちょっとシンプルにまとめてみたいと思っている。考えはまとまっているのだけど、先ほどオーダーした下記の本を読んでからにしようと考えているので、途中に別のエントリーもはさみつつ、しばらく先になると思う。

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*1:田中宇氏はフリーの国際情勢解説者。かなり昔にこの人のメルマガを読んでいたけど、妙に陰謀論が多くて止めた記憶がある。ただ海外記事を丁寧に読んでいるところもあって、良記事も多いと今回再発見した。