毎日社説のありえないシティ救済批判(追記あり)

脊髄反射的エントリー。毎日新聞の米シティグループ救済に関する社説が、 状況認識という面でも、論理的文章という意味でも、かなりレベルが低くて失望した。

http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20081126k0000m070125000c.html:Title
大きすぎてつぶせなかった−−。米政府が、シティグループへの大規模な追加救済策をまとめたのは、世界最大級の金融機関を破綻(はたん)させれば計り知れない被害が地球規模で及ぶと考えたためだ。

 シティには、約2.5兆円の公的資金を資本注入したばかりだが、新たに約2兆円をつぎ込み、加えてシティが抱える不良資産から今後発生する損失の大半を政府が負担する、という前例のない救済となった。

 今回も市場に追い詰められて週末に対策をまとめる、という9月以降のなじみのパターンである。政府の危機への認識が甘かったということと、いまだに米国発の金融危機が解決にほど遠いことを示している。

ここまでは事実なので基本的に同意なのだが「地球規模」ってなんだよ! そんな変な表現を使わなくても、「全世界」でいいじゃん。地球っていうのは天体だよ!! たかだか人類の銀行が潰れたからって、地球規模では大した影響はないと思うよ!!! ってこれはほんの序の口。

 他の金融機関とともに受けた最初の資本注入や大規模なリストラ策にもかかわらず、シティの株価は急落を続けた。抱える不良資産の大きさとその抜本的な処理の道筋が見えなかったためだ。そこで、不良資産を約30兆円と確定し、政府の保証をテコに、その最終処理を進めようというのが今回の対策である。

 難航の末に成立した金融安定化法はもともと、金融機関からの不良資産買い取りに公的資金を使うというものだった。しかし「それでは時間がかかり過ぎる」となり、直接、資本注入に使うよう切り替えたばかりだ。それを再変更し不良資産売却に伴う損失の穴埋めにも公的資金を使うことにした。明らかな迷走だが、それでも世界100カ国以上に展開し、金融市場の中枢に位置するシティの破綻を許すことは、現実的な選択肢となり得なかった。

 だが、混乱の末これほどの救済策をとってもなお、危機の出口は見えない。

 まず、シティの不良資産の処分がどの程度進むのか、最終的な損失が30兆円の枠内で収まるのか不明である。他の大手金融機関が同様の支援策を求めてくることも考えられる。さらに、支援の対象を、自動車業界や個人の借り手に拡大した場合、金融安定化法で用意した公的資金枠70兆円で果たして足りるのか、との疑念が出てくる。

この文章は無茶苦茶だ。まず、現行のシティの不良資産はいくらなんでも30兆円のロスにはならないだろうから、政府サイドで保証して、シティの経営破たんを防ごうと考えている(政府保証があるからシティは保証範囲より低い時価評価をしなくていい。いずれ市況が戻れば、現在時価以上で売却できる)という意図だと思うが、「不良資産を約30兆円と確定し、政府の保証をテコに、その最終処理を進めよう」とか、「最終的な損失が30兆円の枠内で収まるのか不明である」ってなんだろう。

百歩譲って、保証が「30兆円の枠内で収まるのか不明である」という主張が成立したとして、「さらに」で繋げて、「金融安定化法で用意した公的資金枠70兆円で果たして足りるのか、との疑念が出てくる」って、公的資金枠70兆円の不足の方を問題視しているような文章だけど、「30兆円の保証枠」を使い果たして、シティが結局のところ破綻して、政府が保証債務30兆円を履行するような事態になったら、そっちの方が圧倒的に大問題だ。

一方で、「公的資金枠70兆円」の不足については再議決して増額すればいいだけだ。場合によっては政府ではなくて、AIG救済のように、FRBが大きな特別融資*1をしてしまってもいいと思うし、それほど大げさな問題でもない。
ここで損失が30兆円の枠内で収まらないことは「政府の支出」の話しであり、公的資金枠の増加は「政府の貸出し」の話しなので、同列に並べること事態が不自然だと思う。

 これまでの米政府の対応には、「場当たり的」「後手に回っている」との批判がつきまとってきた。対症療法ではなく、早く市場の信頼回復につながるような危機克服への工程表を示してほしい。

 唯一の救いは、オバマ次期大統領が早々に経済閣僚人事を固め、現政権と連絡を取りながら、金融安定化策に着手しようとしていることだ。「この経済危機は米国だけの危機ではなくグローバルなものである」との認識のもと、世界との協調を唱えている。ただ、震源地の米国で危機の炎が収まらないことには、グローバルな危機の解消もあり得ない。現政権も次期政権も、問題の先送りは許されないのだ。

ここにも相当の違和感がある。議会が反発して「公的資金枠70兆円」についても紆余曲折の末に、ようやく認められたという経緯があったのだ。米政府が、「場当たり的」や「後手に回っている」というより、米議会であったり、米国民の声の方に問題があるだろう。

最後のセンテンスは同意だけど、よくもまあ、こんな社説を掲載できるものだと思う。何か、私の方が何か勘違いしているといいんだけど、そうじゃなければ論説委員変わってあげようか?

ちなみに、お口直しとして推奨できるのは、下記のロイターやBloombergの記事。

米政府がシティグループ救済、不良資産保証・優先株取得へ - ロイター
http://www.business-i.jp/news/bb-page/news/200811250010a.nwc


あと個人的に、激しく同意だったのは、小幡績*2の下記ブログエントリー。

http://blog.livedoor.jp/sobata2005/archives/51172058.html:Title


私も、このシティ救済については、下記のように感じている。

  1. シティが破綻危機になるほど、今回の米国経済危機は巨大だと改めて実感した。
  2. 想像を絶する手厚い救済策というように感じる。米国の政策運営者は、今回の経済危機を入り口で止めるという強い意思表示をしているように思える
  3. 短期的には、ポジテブサプライズ
  4. 長期的には、ネガティブサプライズ。米国の財政危機、米ドルじゃぶじゃぶの弊害(インフレ懸念)、また両者から派生するドル信認危機のリスクは高くなっていると考えられる。
  5. 最低なシナリオは、一生懸命景気刺激をしても、流動性トラップから脱出できず、極東の某国のように政府債務ばっかり増えて、経済成長は低成長からマイナス成長か続き、高齢化社会の中、ダラダラとデフレが続くこと。


この流れで景気回復を軌道に乗せれたとしても、最終的には米国内で大規模なインフレが発生し、世界的に経済が混乱する危険性が高まっているように思う。このシティ救済は、米国にとってはベストチョイスである可能性もあるが、他国も含めて長期的に考えると明らかにマイナス面の方が大きいのではないだろうか。


2008.11.17誤字修正/追記
改めて読み返すと、毎日の社説はどう考えてもオカシイのだけど、こっちのエントリーもつられて変になっている部分があることに気づいた。今回の救済策は「特定の30兆円分の不良債権」に関してのみ政府保証がついているので、「最終的な損失が30兆円の枠内で収まるのか不明である」という文は「政府保証対象外の債権で損失が発生した場合の損失額は不明である」とするべきで、「30兆円の枠内」はミスリードな表現だろう。

それに対応する形で私の文章でおかしいのは、『「30兆円の保証枠」を使い果たして、シティが結局のところ破綻して』というくだり。この言い回しは削除した方が正しいので、取り消させて頂きます。

変な文章を斬ると、斬った側までおかしくなるのは良く見かける光景。もっと注意せねば。

*1:今回のシティの不良資産30兆保証も一部はFRBが保証しているようだ

*2:小幡績氏は下記の著者。本書はオススメできる内容。池田信夫氏もオススメ。

すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363)

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