企業に派遣労働者を救済させるべき理由/人事雇用【8】

id:fromdusktildawn氏が、「努力しない人を国家が救済すべき14の理由」というタイトルで「努力しない人」を救済すべき理由を、超合理的な観点から述べている。


一部に「珍しく素で正しい」とか「極論とかじゃなく」いうようなブクマコメントもあったけど、この14の理由からは「社会全体の幸福の最大化」とか「努力しない人にも苦痛がないように最低限の生活保障を」という視点を意図的に抜いていて、「努力する人の視点」からのみで説明しているので、まあ、かろうじて(?)極論だろう。

でも、どれも納得できる理由で、分野も多岐にわったているので説得力がある良エントリーだと思う。ただ、根本的な問題として、単に理由付けだけが明確にできただけではあまり意味がない。一番大切なのは、何が行われるかだろう。救済されればそれでいいし、どんなに救済すべき理由が明快で合理的でも、予算がつかず政策として実行されなければ意味がない。

そして、日本国政府は相当に負債をかかえていて、税収も落ち込むさなかに全国民一律のバラマキなんかに精を出している。だから、id:fromdusktildawn氏のエントリーを読んで、なるほどと納得するんじゃなくて、実際には救済できないから14の理由としてあげられている事象が、つぎつぎに現実化するというところが重要なポイントだと思う。

fromdusktildawn氏のエントリーを誘発したのは上記のエントリーで間違いないと思うので、「派遣労働者」についての話題ということで関連でツッコミを入れておきたいのが、下記の日経BPネットの財部誠一氏のコラム。

問題の本質は派遣切りをしている企業の体質ではなく、法制度にある。たしかに契約期間満了前に職場を追われる派遣労働者にしてみれば、理不尽きわまる差別行為となるが、現状の法制度のもとでは、違法ではない。一方、企業にしてみれば、あくまでも法律が定めるルールのなかでの判断だと言わざるを得ないだろう。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20081212/119407/:Title

論点も明快だし、「国民全員に給付金をばらまく前に、厳しい生産現場で真面目に働いてきた自動車業界の派遣社員たちに直接給付をしたらいいではないか」というところは禿同だ。そして、法制度こそ一番の問題というのはもっともである。ただ、それを踏まえても、根本的なところで同意できない。

法律で定められていて、切って良い派遣社員だから切ります。切ってはいけない正社員だから切りません。

しかしながら、派遣社員も当然ながら人間だ。当然切られれば痛い。落ち度なく切られれば、もっと痛い。ルールでも痛いものは痛いし、その痛みを和らげるようなセーフティーネットもそんなには充実していない。

私も解雇権はもっと強めた方が良いと思うが、それは優秀で一生懸命働く人間こそを、差別なく良いジョブポジションに置くべきだと思うからで、経営の都合で、一生懸命働いて来た人間を簡単に切れるようにするためではない。

だからマスコミが派遣労働者の不遇に声を上げるのは極めて妥当だし、少なくとも派遣切りをした企業はそういった批判を浴び、社会的ダメージを受けるべきだ。そして、それを回避するために非正規雇用も極力維持する努力をして、また切らざるを得ない派遣社員の再就職や生活維持に手を貸すべきであろう。

日本の輸出/GDPの比率*1は増えたとはいえ2007年で17%強。外需は何をどうしても減るのは間違いない中で、特にここ数年内部留保を蓄えた輸出企業に対して、内需減の大きな要因となる雇用調整を安易に許すべきではない。


そもそも法律がどうであれ、いままで自社で働いてきてくれた人間に対して、精一杯の礼は尽くすべきではないか。私が人を雇えるような経営者になるかどうかなんて未知数だけど、派遣社員といっても安易に雇用を削減しようと考える経営者には絶対なりたくない。

確かに円高が固定化しそうなので海外逃避する企業は、今後増えるかもしれない。ただ、派遣切りを糾弾されたから海外へ行きますなんていう話が本当にあるだろうか。もちろん、法改正とか国家的な救済の方が重要だろうが、まだまだ余力があるのに派遣切りする企業は、どんどん糾弾されてしかるべきだろう。


P.S.
派遣切りを報道されている企業が、安易に派遣社員を切っているかどうか、どれだけ礼を尽くしているかは調べていないので、上記については、あくまで財部氏のコラムに対する指摘です。派遣社員を切っている一方で、救済にも力を入れているような企業さんの事例があったら、ぜひ、コメントなどでお知らせ下さい。

*1:輸入を引いた純輸出ではなく、財・サービスの輸出