失業する派遣労働者を救う新ニューディール政策

前回エントリーの後半でも取り上げたが、堀江氏が公共事業に関して書いていたことに絡めて、失業する派遣労働者を救うアイディアを書いてみたいと思う。

いまいち起業家精神がないホリエモン

月20万の給料を貰って、実は社会全体は、その労働を作り出すのに月30万のコストをかけている、というような。だったら、ダイレクトに20万渡せば10万円セーブできるんじゃないかと思う。例を挙げるのはここでは控えるが、いくらでもあると思う。
ベーシックインカムの話 | 堀江貴文オフィシャルブログ「六本木で働いていた元社長のアメブロ」

上記で堀江氏が主張しているように、無駄な公共事業をやめて、困っている人に直接お金を渡そうというのは、乗数効果が下がりGDP的には不利だけど、富の再分配を効率的にやるという観点からは理解できる。

ただ、元起業家だったら、もう少し違う考えであって欲しいと思う。それは、ダイレクトに渡すだけのお金があれば、それを原資に新事業を起こして、投資した金額より多くの給与を渡せるだけの雇用を生み出すという考え方だ。


そういった意味で、id:fromdusktildawn氏が、池田信夫氏ブログのエントリーでつけていたブックマークコメントもちょっと気になった。

人々が新サービスにどんどんお金を使おうというモードなら、新サービスを提供する企業を興すのは経済合理的だけど、人々の財布の紐が堅いときに起業しても成功確率は低い。総需要を増やさないと新産業は育たないよ。
http://b.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20081228#bookmark-11462937

こういったことは、もちろん正しいけど、需要を増やすのは新産業の役目でもあるという面もあると思う。

イノベーションを起こして新しい価値を創造し、新しい雇用を生み出すから起業は賞賛される。そして、詐欺的な事業によって他者より奪いつつ自分達だけ儲かればよしというのは論外だけど、イノベーションを起こすとしても、それには雇用を減らすものと増やすものと両方があると思う。今から、政府支出をつぎ込むのであれば、新需要を掘り起こしす「雇用を増やすイノベーション」を起こすことに全力を尽くすべきだと思う。

日本の不況の根本原因

日本の経済状況としては基本的に、下記のような状態にあると思う。

  1. バブルの敗戦処理がいまだに続いている
  2. 企業も個人も、将来に期待を持てない
  3. 団塊世代が老後に備えて貯蓄/節約に励む
  4. 団塊ジュニアが子育てに備えて貯蓄/節約に励む
  5. 企業もまた借金返済・内部留保増を進める
  6. その反動があり、ワーキングプア、非正規雇用者がもの凄く増えた

このほかにも、格差社会が進行して、お金を溜め込んだものの特に使い道がないという人も増えた。また晩婚化や非婚が進み、金を溜め込んだ一方で、独身で特に使い道がない人も増えている傾向にあると思う。*1

そういった中、需要もないのに企業に新規投資させるのも難しいし、今後高い教育費を払わなければいけない団塊ジュニア子育世帯の消費性向を高めるのは困難だろう。税制優遇してマイホーム取得を促進させるのは1つ良い政策だと思うけど、住宅ローンの利子補給減税は長く続けすぎていて限界に来ているようにも思える。

まあ、不況の基本形かもしれないけど、端的に言うと、あるところにはお金があるのだけど、停滞して回らなくなっていると言って良いと思う。

不況対策として各種政策案

そこで景気対策をしようとしても、バブル後の失われた10年(17年?)で作ってしまった政府債務が重くて財源が乏しい。今すぐ増税をするのは論外だし、財政出動をして将来の増税が必要となるような政策をとると、将来不安から貯蓄を増加させるバイアスがかかってしまい、効果は減ってしまう。

財政出動は、金融システムを保全したり、連鎖的な経営破たんを防ぎ企業倒産で失われる生産性を守るという意味では確かに役立つ。非常事態に短期的に対応する面ではプラスの効果はあるだろうが、そういった効果がないレベルにまで踏み込むと、長期的にはネガティブ面の方が強くなってくる。

他にも、デフレとなった状態で流動性トラップから抜け出すためにも財政出動が必要となる面もあるが、もしもいたずらに財政出動をする一方でデフレ脱却にも失敗する事態になると、それは最悪の状態とも言えると思う。


こういった問題を踏まえて、一つ単純な政策は、貯蓄性向にあまり影響を与えない税として、相続税の段階的引き上げと、現時点での支出に対して相続税面でのインセンティブ付与をすると良いと思う。

例えば、いま着工すれば、その建物の相続税上の評価額を3割減で評価できる制度*2とかどうだろう。また、贈与税相続税と同率課税にする一方で、将来的には相続税の税率や課税範囲を、ゆるやかに上昇させるような税制改革を行い、生前贈与を促進するとよいと思う。

そうすれば、世の中で特に高齢者の手元で余っているお金が国内投資や消費に向かないだろうか。例えば大金持ちが収益用に賃貸マンションを建てたり、団塊世代の定年爺ちゃんが二世帯住宅を建てたり、不動産投資を後押しすることができるだろう。


また、景気対策流動性トラップ脱却のために財政出動をするにしても、将来の政府支出を削減できるような工夫をしないと「将来の増税」が重しとなり効果が薄れるし、そもそも政府債務は限界に近い。そういった面から、どの分野にどう支出すると「将来の増税」が不要となるかを精査する必要があるだろう。

具体案としては、全国で廃校になったり、設備余剰になっている小中学校を、住み込み型の老人介護施設に改造するとよいのではないだろうか。設備も古いので介護付き終身老人ホームとしては不人気の部類になるだろうが、低料金であれば一定の利用者も見込めるし、頭金+年金権利を入居金とする制度とすれば、今すぐ工事需要を発生させつつ将来的には、年金支払が国庫に還流する形を作ることができる。

あと単純なところでは、リニア新幹線の前倒し着工とかもいいと思うし、大規模投資としては、他にもいろいろあると思う。ただ、こういう採算性に賭けるような事業は、リスクもあるので民間からも出資を得るような形にして、コンペ形式にすると良いと思う。

こういったことが実現できると、建設業や福祉介護業で、派遣労働者を含めた雇用吸収もできるだろう。そして、次に本題として1つ具体的な政策案を提案したいと思う。

平成日本版のニューディール政策

政府主導のイノベーションと言えば、まず失敗するというイメージがあるが、必ずしもそうではないだろう。民間ではできないような呼び水的な大規模投資を行い、政府の信用力をバックに普及を進めるというのは歴史を紐解いても、いろいろとある。また、以前にも書いたが高速道路のETCは最近の好例になると思う。

そして、平成日本版のニューディール政策として実際に進めると良いと考えた事業内容は、とても陳腐だと思われる方も多いだろうが、それはネットを足回りに利用した「テレビ電話」だ。これに「本人認証課金システム+インターネットブラウザ(Flash中心)」の機能をくっつける。


私が子供の頃、夢の21世紀として語られていたビジョンの中で、パソコンとか携帯電話*3は予想以上のスピードで実現した。空飛ぶ自動車とか、宇宙旅行とかはまだまだ普及にはいたっていないけど、これらがコスト的にも無理なのは良く分かる。

でも「テレビ電話」はどうして普及していないのだろう。1つはニーズが低いことだ。コミュニケーション手段としては音声があれば多くの用件は事足りるし、コードレス化されていて快適な音声通話に比べて、わざわざカメラやテレビの前に座るほどのメリットがTV電話にはなく、あれば便利だけど消費者がお金を払ってまで買いたいと思わないのだろう。

でも、普及が進まないもう1つの原因は、仕組み不足が原因となっているネットワーク外部性→wikipedia)の問題だろう。

実際にちょっとPCに詳しい人間同士ならば、PCにWebカメラを繋いでビデオチャットするのはそれほど難しいことではないし、skypeとかメッセンジャーとか、他にもいくつかのサービスがあるのだけど、これを単純に電話機と同ぐらい誰にでも使えるレベルで製品化しようと思うと、2つの困難に直面する。

1つはSIPとしてプロトコルレベルで標準化はされているものの、電話番号のよう全国共通で網羅的な名前付け空間がなく、接続相手を指定する方法に困ること。もう1つは、アドレス不足に陥ったIPv4の弱点とも言えると思うが、回線足回りの部分でのNAT(アドレス変換)とかが多種多様で、ピア-ピアで双方向の接続*4をするための単純で良い仕組みがないことだ。*5

ネットを介した電話の仕組みとしては、基本的な規格としてはH.323というものがあり、その中で映像伝送をする方法についてもH.263とかがあるので、少々コーディックの調整は必要かもしれないが、技術的にはそれほど困難はないだろう。あとは足回りでの接続中継の方法を決めて、政府主導で電話番号のようにアドレスを振って、本人認証の仕組みを構築すれば、かなりの部分で障害を排除できるのではないかと思う。

そして、テレビがラジオを駆逐したように、ネットと同化した映像付き通話というのは存分にイノベーションを引き起こせる内容だと思う。長くなったので箇条書きにするが、「テレビ電話+本人認証課金システム+ネット(Flash)」とセットになれば、いろいろ実現できると思う。

  • 個人では遠方の家族・恋人と映像付き通話
  • 商用では商談、ミーティング
  • 学校・学術系でもミーティング、あと在宅学習
  • 映像で商品説明が見れて、いざとなれば店員の顔を見て会話できる通販
  • ワンボタンで配達先などの住所情報を伝送、小額でも決済
  • 役所まで出向かなくても行政サービスを受けられる
  • 耳が遠いお年寄りの方への、筆談(チャット)併用通話
  • いわゆる放送と通信の融合などなど
  • その他若い世代がネットで利用している、ほぼ全てのサービスをお年寄りへ


こういったTV電話で通信販売する流通業側としては、有人対応も実施する場合はネット販売ほど生産性は高まらないのが障害になるが、より高い値段で販売できたり、ネットリテラシーのない客層や店舗がないエリアへ向けての販売が実現し、新規需要を切り開くことができる。

一部のお年寄りや未婚者が貯め込んだお金を、天下に回すという面では、そこそこの効果も出ると思うけど、いかがだろう。

そして、こういうイノベーションが実現すれば、映像制作であったり、TV電話装置の設置であったり、商品の遠隔販売員というところでは、新規雇用を生むことができる。TV電話装置は量産すれば3万円もかからないコストにできるだろうし、初期半年間は利用は無償とか、月額レンタルで500円とか、3万円以上の買い物をした月は無料だとか、CMを月に30回以上見れば無料とか、特定のポータルを固定化すると無料とか、いろいろ拡大するための施策は取れると思う。(回線費は別途だけど)

もちろんPCから繋ぎたい人は、Webカメラと、ICカードリーダさえあれば接続できるようにする。WiiPS3のオプションとしても出すといいと思う。あと、こういう形で実現した本人認証の仕組みをベースに「小額決済」を普及させることができれば、収益源に困っている普通のPCのWebサービス・Webメディアにとって救世主的存在になる可能性もある。


こういった感じのことにちょっと似ているものとして、最近聞かなくなったリンデンラボのセカンドライフがあると思うが、セカンドライフは一見面白そうでイノベーションを生みそうだったけど、純粋に経済効果を考えると、バーチャルリアリティーにこだわるより、オンデマンド映像やインタラクティブな映像を全ての人に届けるという形でTV電話的なものを実現した方が、簡単に大きなイノベーションが引き起こすことができるだろう。

なお、この案でもソニーは逃げずに戦えというエントリーで書いたのと同じように、PS3FelicaICカード)、TV会議装置、その他音声や映像のノウハウを持っているソニーが一番近いところにいるので、同社としても解雇する非正規雇用者を救うためにも、政府へ働きかけとかすると良いと思う。

1つの理想はWiiリモコンのような入力インタフェースをヨーダのように操りながら、孫の誕生プレゼントを通販で買ってあげるお婆さん。そして、そのプレゼントが届いたよとテレビ電話で感謝を告げる孫の姿。

スターウォーズのイントロ風*6で軽く説明を流してから、いくつかのEpisodeをパロディで作るといいCMになると思うんだけどなぁ。いかがだろう。


P.S.
なんか総集編みたいな長エントリーになってしまいました。全文を読んで頂いた方、ありがとうございます。予告して書き損ねたエントリーがあるのですが、それはまた来年。みなさま良いお年を。

*1:晩婚化や非婚と不況とは双方向の因果関係があり、もちろん不況で格差社会が進行して晩婚化や非婚ガ増えた面もあるが、逆もあると考えている

*2:不動産は経年劣化や価格変動があって時価が変動するのでややこしいけど、相続税課税の基準額を「建築時点の時価の3割引きor相続時点の時価」か選択可能なオプションにする

*3:なぜか携帯電話は腕時計形だった。そんなところに固定したらマイクはいいけどスピーカーを耳に当てれないし、腕が疲れるってば

*4:それもできればUDPで双方向通信したい

*5:他にもPCで実装するとサウンドボードやマイクレベルの調整など、機種固有であったりいろいろな問題も発生するが、そこは専用端末にすれば解決する。

*6:スターウォーズのイントロってこんな感じのやつね→http://seishiroh.kokage.cc/freemotion05.html