起業家を少なくしている7つの日本的主義

ベンチャーキャピタルエンジェル税制、またインキュベーションセンターなど、日本国内でも起業を支援する仕組みが、インフラ面では整備されてきている。それなのに、どうして日本で起業家は増えないのだろう。

確かに、米国に比べれば人材育成力や実践性に欠ける大学教育であったり、個人保証を取りにくる銀行融資というようなマイナス要素はある。はたまた、夢もチボーもない長期経済停滞(デフレ)で、若者が物心ついて以来、ずっと将来に希望が持てないという要因も大きいだろう。

私自身、そんなに優秀ではないから起業できなかったり、「要は、勇気がないんでしょう」って言われるようなヘタレだから起業できていない面も強いのだが、起業したいという夢がある一方で起業していないという意味では、明らかに証人の一人だ。

そういう私が考えるところとして、どうして日本では起業できない/しない人が多いかというと、インフラ面の問題よりも、いくつかの日本的主義の影響が大きいのではないかと思う。全部で7点あったのだけど順に説明してみたい。


1.新卒プロパー至上主義

経済合理性という面では、これが明らかに大きい。日本企業は新卒採用したプロパーを重用する傾向が強く、一度起業にチャレンジして失敗してしまうと、元と同等のポジションを望むことは困難になることが多い。

ここ最近の不況からの派遣社員解雇がらみでも問題となっているが、「正社員の既得権」が大きく、またその中でも新卒採用されたプロパーであることがアドバンテージになる社会というのは、転職率を抑制して労働者スキルを向上させるというメリットもあるだろうけど、優秀な人間のチャレンジを抑制するという意味では、もっとも罪深い制度だと思う。

2.子供にマネー教育しない主義

子供にマネー教育をしない。投資やお金儲けの仕組みを説明したり、お金儲けを実践させることを日本は嫌う一方で、米国は歓迎する。

私は自転車で何キロも走って、裏山で採ったカブトムシやクワガタを売りに行ったり、中古ファミコンソフトの裁定取引wをしていたような田舎の中学生だったのだけど、何かで学校の先生に知れて、えらく怒られたのを覚えている。

ここらへんについての米国の事情について知るのには、下記エントリーが良いと思う。

3.嫌儲の清貧至上主義

こんどは大人の話だけど、お金儲けをすることを世間的に妬み嫌う風潮がある。そして、清貧であることを尊ぶ風潮がある。こういう思想って、起業を抑制していることは間違いないと思う。

余談だけど、お金をいっぱい稼いで、いっぱい使う人を尊敬して崇め奉れば、ちょっとは不況もマシになるんじゃないかと思うんだけど、ダメかな?

4.出る杭を叩く前例主義

ストレンジャーを叩くと、チャレンジャーも出ない。何事も前例ありきで進められる大企業や、お役所が増えすぎている。先の嫌儲ともつながるんだけど、どうして優秀で意欲ある人間を叩こうとするのだろうか。

育てろとはいわないけど、叩かずにほっといたら、中には大コケする人もあるかもしれないけど、どんどん成長してみんなを引き上げてくれるかもしれないのに。

またセールス面でも、相当な高値でも大企業からの購入を選ぶような企業購買部門や、ブランド品を選択する消費者も多く、起業を抑制しているように思う。

5.空気を読む団体行動主義

これは何なんだろう。出る杭と似ているのだけど、逆に空気を読みあうような団体行動が心地よく、安全で守られていて楽であるという感覚は私も持っている。

明らかに日本人は欧米人より団体行動が好きで、欧米人の方が個人プレーが好きだと思う。

また、村八分じゃないけど、組織に属さない人間を軽く見るような風潮もある。だから、日本人はついつい会社がここち良く、独立起業を避けてしまうという面があると思う。

6.滅私奉公主義/仁義至上主義

これも団体行動主義の一種かもしれないが、今この現代にあっても、主に仕えて滅私奉公するという精神性は日本人に強いように思う。

そして、「情けは人のためならず」というような個人的な合理性を超えて、仁義に厚いという面もあり、なかなか勤め先を辞めづらいというのあると思う。かく言う私も、辞めるに辞めれないほどお世話になった上司はいないけど、部下なら何人かいる。

一度会社人になってしまうと、仁義を優先しているうちに、独立起業のチャンスを逃す人は案外多いのではないだろうか。

7.非合理精神主義

欧米人の合理主義、日本人の精神主義というのは何も太平洋戦争だけの話ではなく、いろいろな面で明確な差異として存在していると思う。

これは例えば技術的に優秀な人が、合理的に考えて戦略を立ててゴールを目指すと事業になるが、職人として腕を磨くことに注力すると一匹狼として、人知れず活躍しているだけという状態になる。

他にも個人のライフスタイルとして大金持ちになりたいという夢を実現したり、成功してアーリーリタイヤして快適な人生を楽しむというようなゴールを設定して、合理的選択を繰り返すというような意味でも、欧米人の合理主義には日本人は太刀打ちできない面があり、起業力の差を生んでいると思う。

まとめ

これらの、起業を阻害するような主義については。日本の歴史ある伝統的主義もあれば、「新卒プロパー至上主義」を筆頭に、たまたま現代日本において主流となった主義も多いと思う。ともかく、起業家を増やしてイノベーションを起こし、社会の生産性を上げるためには、こういった点を可能なところから1つづつ改善していく必要があるだろう。

ただ、ここにあげた多くの項目は、若い人で特に新卒プロパーのチケットを取れなかった/取らなかった人にはあまり関係ない話だと思う。でも、そういった中でも優秀な人が「31歳フリーター。希望は、起業。」とかになってくれれば、いいんだろうけど、どうだろう。


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P.S.
こちらのブログを開設して、はや1周年。昨年の抱負は、このブログも関連していたのですが、思いのほか達成度が高く、起業へのモチベーションを高めるという意味でも大成功でした。読んでいただいたり、相手をしていただいたみなさまに、本当に感謝いたします。

今年の抱負は、起業関連のアクションなのですが、匿名ブログなので秘密ってことで。ブクマ頻度や、エントリーアップ頻度は落ちますが、今後とも、どうかよろしく。