続・放送がネットに食われる最大の理由

ホメ殺しっぽいところは華麗にスルーするとして、前回エントリーにHALTAN氏からいろいろと指摘を頂いた。だいたい私のエントリーは長すぎの傾向があるが、前回は短すぎたような気がするので、背景を説明しつつ、一部反論をしておきたい。

まず、私もマスメディアとか広告は門外漢で、まあ新ビジネスを妄想する際に、広告収入モデルを夢見るあたりから、いろいろ考えたり、本や雑文を読んで知識吸収をしている程度なので、ちょっと怪しい記述があったかもしれない。


ところで、広告収入モデルを考える場合、まあ何かのWebサービスの妄想をしているわけだけど、そうした場合にまず思い至るのは、「広告の争奪競争」よりも「可処分時間の争奪競争」についてだ。

テレビに関して言えば、ファミコンで花開いたテレビゲーム時代の到来で、放送媒体そのもが侵食された面もあるが、ゲームが流行り、発達した過程で、団塊ジュニア世代以降の「可処分時間」の多くをゲームが獲得した。

日本人全体の「可処分時間」の総量は、そもそもワーカホリック万歳で少ない上に、おそらくは少子化や女性の就労時間増の影響で、近年はかなり減ってきていたと思う*1

ともかく各メディアにとっては、「可処分時間」の減少という逆風がベースにあり、そこへネットやケータイが登場したことで、例えば出版業界などが苦境に立たされているというのは、その通りだと思う。

そして、テレビは基本的に無償メディアということで、可処分所得が少なくて「可処分時間」が多いという特性を持っている最適ターゲット層である青少年が減少している状況下においては、強い逆風が吹いていることになる。

その減少している青少年の「可処分時間」は、確かにゲーム・ネット・ケータイに食われ、広告効果の面でも、ダイレクトに購入に繋がる特性などで、ネットやケータイに食われた部分も確かにあるだろう。ただ、HALTAN氏も書いている通りテレビの特にキー局が持っているマスの力、またローコストで広告を配信する能力というのは、圧倒的だ。

そして、表現能力においても、映像というのは百聞は一見にしかずということわざ通り、圧倒的なパワーを持っている。さらには、広告を売るという営業の面でも代理店網もしっかりしているし、Google AdWords広告の知名度を生かした無人販売の効率性には負けるかもしれないけど、Webバナー広告の販売なんかよりも、よっぽど効率的に広告販売ができるシンプルな仕組みを持っている。

それなのに、連結決算の経常利益ベースで見ると、収益力ではヤフー1社にすら大きく水をあけられている。

2008年3月期 2007年3月期 2006年3月期
ヤフー 1215 1028 798
フジ*2 270 459 503
TBS 230 262 153
日本テレビ放送網 267 341 300
テレビ朝日 120 145 173

(単位:億円)

ヤフーは実際にはオークション収入が多いなど、単純にメディアとして比較できない部分もあるが、テレビ局というのは、すごく優位なポジションを持っているにも関わらず、何十年と変わっていないビジネスモデルを劣化させながら使い続けているという点で経営的にはダメダメで、だから「端的に言ってテレビが勝手にコケているウェイトもかなり大きい」ということが、前回エントリーで一番言いたかった内容だ。

そして、テレビ広告の競争力はずいぶん前から落ちていたけど、明確な対抗馬がないので、なんとなく収益は維持できていたところへ、ネットや携帯が出現して、漸減傾向になったという面もあると思う。

なお今回の不況は2008年10月頃から本格化したと思うが、見ての通りそれ以前からテレビ局の収益縮小とヤフーの収益伸長というのは始まっているので、私の観点ではid:HALTAN氏の言う「昨今の恐慌もあり企業が地上波にCMを出す余裕がなくなった」という部分以外のものも存在していると考えている。

(他にも、id:HALTAN氏から批判を頂いた部分はオマケ部分なので、反論は割愛します。)


そして、id:HALTAN氏のエントリーでは否定的な人物として出てきたが、ここは私は元NHK勤務の池田信夫氏に賛成であるポイントがあり、現行テレビ局が官製寡占になっていることが諸悪の根源だと思う。

(ただ、池田氏がここで主張していることは、微妙に感じる。テレビはリーチの広さを考えると、アテンション情報量あたりのコストは、ネット以上に安いように思う。ネットの方がばら売りできるので安い金額から買えるというメリットはあるが、本質は外しているのではないだろうか。)


各テレビ局は確かに寡占の恩恵に守られて、収入が安定して、半公共的なマスコミとして存在しつづけていけるというメリットはあるだろうけど、こういった環境ではイノベーションは起らない。また多重下請けでコンテンツを作らせて、半独占的地位を活用して利ざやを抜くだけという阿漕な商売にどっぷりつかった既得権企業となり、肝心の映像制作能力も、どんどん劣化しているという状況では、まあネットに食われ続ける可能性も高いと思う。


なお、id:HALTAN氏と私の一番の違いは、AがBを食うと言ったときに、Bが完全に捕食されるか、それともじわじわ侵食されるかという部分での捉え方の違いであったり、メディアとしての広告総額で見るか、事業者としての収益力で見るかという点が大きいかもしれない。

*1:学生や専業主婦は「可処分時間」が多く、社会人は少ない。今後は老齢人口が増えて、そこに「可処分時間」を多く持つ集団が出現するという傾向が出ると思うがこれは余談か...。

*2:フジ・メディア・ホールディングス