村上ファンド事件の教訓

下記のブログ記事で、久々に村上ファンドに関する記述を見た。

私も以前に長文の一部にちょこっと書いているが、村上ファンド村上世彰氏は好きで、日本経済にとって惜しい人を失ったと思っている。

でも、冒頭のブログ記事にある記載はちょっと行きすぎだろう。ついているはてなブックマークの一部も微妙だけど、「村上ファンド事件」そのもののインサイダー性というのは、ある程度は明確に存在している。

特に「ニッポン放送を買収することを聞いて、先回りしてニッポン放送株を買ったということ」が単純に事実であれば、それは極めて高い確率でインサイダー取引で、逮捕されて当然だと思う。ただ、村上ファンドは元々、ニッポン放送株を相当数持っていて投資対象にしていたし、ライブドアニッポン放送を買収なんて本当にできるのかという現実性の問題もあった。

村上ファンドの投資判断に「聞いちゃった」がどれぐらい影響を及ぼしたか(意図的に先回りをしたのか?)というところと、どれぐらいリアルな内部情報として得ていたかというところが争点になると思う。

私も裁判の様子は詳しくは知らないが、読んだ報道記事から想像するに、元ライブドア宮内氏が偽証とかしていなければ、おそらくは村上氏の過失で、実際にインサイダー取引だったということになると思う。

ただ、このインサイダー事件の一審が、別方面で、とんでもない結果に終わる。

「強い利欲性が認められ、徹底した利益至上主義には慄然(りつぜん)とせざるを得ない」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20353108,00.htm:Title


懲役2年の実刑という量刑となったこともさることながら、ファンドに対して「徹底した利益至上主義には慄然」とする判決文が出てしまったのだ。

これこそが、冒頭ブログ記事も引いている下記、池田信夫氏の記事と対応する内容だろう。

私の知人に、ある投資ファンドのファンドマネジャーがいるが、彼も村上ファンドの事件で「日本では投資ファンド自体が犯罪とみられることがわかった」といって、シンガポールに移住した。
http://agora-web.jp/archives/803067.html:Title


村上ファンドは、このインサイダー事件の対象となったニッポン放送株の売買に関して、対ライブドアで裏切り行為とも言える売買をしていて、たしかに道義的には問題はあると思うし、裁判長はそれを指摘しているのかもしれない。

ただ、ライブドアへの裏切りはライブドアが買収方針を公表したあとの話であり、今回事件のインサイダーが成立するための前提となる「取得」とは関係がない。そして、ファンドマネージャーとしての職務遂行義務として、他社との関係を悪化させてでも利益を取りに行くのは、当前の話だろう。むしろ、契約関係もなしに共闘を信じて、大金を投じたライブドアが甘いとしかいいようがない話だと思う。

なお、二審は執行猶予判決になり、インサイダーとなる範囲も現実的な内容に改められているとのことだ。村上氏は上告していて最高裁でも争われる可能性もあるが、ひとまずトンデモな表現を含む一審判決が覆ったことは良かったと思う。
参考:http://diamond.jp/series/nagasawa/10057/:Title


起業は株式会社の設立を伴うことが多く、上場ともなれば創業者はインサイダー取引に一番近いポジションにいるので...、というのは、それこそ現実性に疑問がある話だけど、まあ自身や家族知人が関係者である会社の株の売買をする際には、インサイダー取引に該当するかどうかということを、注意しすぎるほど注意した方が良いのは間違いないだろう。


P.S.
余談になるが、同列で語られることの多い「ライブドア事件」については、私はもっと辛口だ。最近、堀江氏が殊勝なコメントをして驚き、ちょっと見直したが、さまざまな手法で、意図的に株主を騙すようなスキームを組んだこと自体は、過失ではないだけに犯罪性が高いと考えている。