伊藤元重先生に物申す(前編)/消費税アップ&バラマキで景気回復?

ここしばらく家を空けていたこともあって、産経朝刊を4日分まとめて読んだ。そうしたところ、東大の伊藤元重教授のコラムやコメントがいくつか掲載されていたのだけど、どうしても気になる箇所が2箇所あったので、まずは単純な方から順にツッコミを入れて行きたいと思う。

ちなみに、伊藤先生はテレビ東京WBSのコメンテーターだったりもするが、東大経済学部の学部長を勤めていたり、去年の10月には鳩山総理との勉強会にも呼ばれたりもした、とってもエライ先生だ。


まずは、以下、2月13日付けコラムの抜粋。

少なくとも基礎的なケインズ経済学では、増税によって増やす財政支出は乗数1で景気刺激効果を持つとされている。

(中略)

言うまでもなく、増税の基本は消費税率引き上げだろう。今、消費税率を引き上げても、景気を悪化させない方法がある。たとえば、消費税率を現行の5%から10%に引き上げたとしてみよう。それで12兆5千億円ほどの税収の増加が見込まれる。重要なことはこの税収をどう活用するのかということだ。将来的にはその8割程度を少子高齢化対策、環境、科学技術などの財政支出に回し、残りは借金の返済に回していくということになるのだ。景気に配慮しながら財政再建を果たすということなら、そうした歳出増と借金の返済のバランスが必要となる。

 ただ、当面は景気に配慮するため、12兆5千億円の税収を全部、国民に還付してしまう方法もある。1人あたり10万円、4人家族なら毎年40万円支給される計算だ。消費税が10%に上がっても、1人あたり10万円の還付が行われれば、景気にはプラスに働くだろう。所得格差を少しは解消する手段ともなる。

 もちろん、所得還付を実現するために消費税率を上げるわけではない。日本経済の長期設計を考えれば、一刻も早く消費税率を引き上げる必要があるからだ。ただ、それが当面の景気にマイナスに働くことがあってはいけないので、景気配慮からしばらくは所得還付という対応を行うだけだ。

http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/100213/fnc1002130248001-n1.htm:Title


うーん、消費税の増税と同時にバラマキをしたとして、はたして景気にプラスに働くだろうか。

消費税は付加価値税と同義で、家計だけではなく、価格の調整を経由して企業からも実質徴税することになる。また、消費税増税には実質的には資産(ストック)の減価と似たような意味合いもある。これはかなり、微妙な議論になるはずだ。

でも、伊藤先生のこのコラムでは根拠として、基礎的なケインズ経済学の乗数しか示されていない。乗数といえば最近国会でも話題になったけど、金額的に相殺される増税を実施しつつのバラマキで、差引きで乗数1を超えるだろうか。

仮に超えるとしても、乗数効果が出るには時間がかかる。たとえば増税開始と同時にバラマキ支給したとしても、まず増税前にすんごい駆け込み需要が来て、その反動と増税で景気に大ブレーキがかかるだろう。一方で乗数効果も含めたバラマキの効果が出るのには時間がかかるので、トータルで見ると景気面でも経済厚生面でもマイナス効果しか出ないような気がする。

あと、こういう微妙な話を基礎的なケインズ経済学を表に出してきてするのは、どうかなという気もする。消費税増税は、ストックや収支、価格全体に大きな影響を与えるだろうし、乗数以外に考えるべきことは多いだろう。


私は経済が専門じゃないから、どこか間違っているかもしれない。元政府税制調査会委員の伊藤先生が言うのだから正しいかもしれない。

でも、消費税増税が必要とか、所得格差を解消というのは分るが「まずは消費税増税してバラマキをして景気回復する」という箇所は、どうしてもトンデモに思えてしまって、納得が行かないコラムだったが、いかがだろう。

複雑な方は、後編につづく。(って、例によっていつになるだろう...。)