新聞も間違う内部被ばくのリスク。子供だけは気をつけよう。

前回エントリーで外気からの内部被曝のリスクを計算してみて、ある程度は放射線健康被害についての感覚は掴んだ。あと、いろいろと内部被ばくに関する情報も増えてきたので、私が書くことは、もうないと思っていた。

ただ、私自身も含めて、特に子供の内部被ばくについてのリスクを甘く計算しすぎている記述や報道が多く、前回エントリーの訂正という意味でも、乳幼児の内部被ばくのリスクに焦点をあてて、再度説明をしてみたいと思う。

まず、明らかな嘘つきの、副島隆彦先生の「今日のぼやき」から。

私、副島隆彦は、あとあと、どんなに非難されてもいいと覚悟しました。「無責任に、放射能の安全宣言を出した、何の専門性もない、評論家が、危険な発言をした。そのせいで多くの体内被曝(たいないひばく)の患者が生まれた」と、5年後、10年後に、言われて、指弾されても、甘んじて受けると決めました。私には、核物理学、放射線医療の、何の専門知識もない。それでも、自分の体で感じて分かります。そして、現に自分の家に帰って来ている人たちがいるのです。

(中略)

たかが、20マイクロシーベルト毎時ぐらいの線量は、赤ちゃん、幼児、青少年にとっても、将来にわたって問題ないと、私、副島隆彦は、敢えて、断言します。
http://www.snsi.jp/tops/kouhou/1492:Titlehttp://www.snsi.jp/tops/kouhou/1492:Bookmark

いやはや、なんとも。

幻想かもしれないけど、私はインターネットを利用した一般市民が、マスコミの対抗勢力として機能することに、ネットの存在意義を感じているところがある。私自身、今回もそうだけど、ときどきテーマから外れたブログエントリーを書くのも、まあこのパターンが多い。

そういった意味で、今回副島センセが、マスコミが動かない中で、実際に行ってデータや写真を取ってくるのは素晴らしいことだと思うし、もしも勝手に安全宣言などせずに「自分は年寄りだからリスクが低いから」とか説明していれば、英雄扱いしたいぐらいだ。

ただ、赤ちゃん・幼児も含め、内部被ばくに言及しながらも、20μSv/hの線量の環境が安全だから戻って来いという断言は、ないだろう。

特定臓器にフォーカスする場合に重要な等価線量

さて、副島センセへの反論に向けて、乳幼児の内部被ばくを考えて行きたいが、これを理解するのには、いろいろと勉強しなければいけないことが多い。

まず、乳幼児の内部被ばくリスクは、チェルノブイリの事故などの調査結果も踏まえて、ヨウ素131による、甲状腺がん発病のリスクが、唯一とも言える顕著な問題だという報告も多い。長期的にはセシウムも多少怖いが、今回は、甲状腺ヨウ素131についてのみ考えてみたいと思う。

最初に、前回エントリー時点では、私もしっかりと把握できていなかった、「等価線量」と「実効線量」の話を整理したいと思う。

この2つの線量、両者とも単位はシーベルト(Sv)で測るが、計算方法や評価方法が異なるので、明確に区別して扱う必要がある。

私の前回エントリーでは「実効線量」についてのみ説明しているが、これは「実効線量」が「全身の被ばく」に対するリスク評価をする上で便利な仕組みであり、国の規定値なども含め広く使われていて、私が見た「緊急被ばく医療ポケットブック」でも、「実効線量」を中心とした記載となっていたからだ。

全身に被ばくを受ける場合、どこの臓器が影響を受けるか分からないし、どこの臓器がダメージを受けてもリスクになる。そのため「実効線量」は、「各臓器の被ばく線量×各臓器の影響度(組織荷重係数)」を計算し、それらを全臓器分で合算した値となっている。

(で、全身の各臓器で均等に100mSvの放射線量を浴びると、実効線量も100mSvになる)

一方で、「等価線量」は特定臓器における、被ばく線量の値。上記の計算で「各臓器の被ばく線量」となっている箇所だ。


ここで話をヨウ素に戻すと、この元素は体内で甲状腺に集中する性質がある。今回の放射能汚染で一番大きな問題となっている放射性ヨウ素131は、保険適用の治療薬としても認可されていて、これはヨウ素131が体内で甲状腺の細胞へ選択的に集中するので、ヨウ素131が出す放射線を利用して、甲状腺の細胞(もしくは転移した甲状腺がん細胞)へダメージを与えることで作用する仕組みとなっている。*1

ここらへんの治療実態も考えると、ヨウ素131はかなり高い率で甲状腺に集中して、他の臓器へは、ほとんど影響をあたえないような挙動を取ると考えて良いと思う。

そして、資料を調べていくと*2甲状腺に関して、組織荷重係数は「0.05」なので、仮にヨウ素131が100%甲状腺に集中すると仮定すると、内部被ばくについてヨウ素131の「実効線量」と「甲状腺の等価線量」は20倍違う値になり、リスク評価をする上で、これらを同一に扱うわけに行かないのは、当然のことになる。

内部被ばくの被ばく線量の計算方法

前々回エントリーでは、何の説明もなく、「内部被ばくの線量換算係数」を使って、外気中の放射能(ベクレル, Bq)を、被ばく線量(Sv)に変換したら、タイトルもあいまって一部の方々には、トンデモ扱いをされたので、簡単に説明しておきたいと思う。

「内部被ばくの線量換算係数」は、体内に取り込んだ放射性物質が、体内でどれだけ吸収され、各臓器にどれだけ分布し、どれぐらい時間をかけて排出されるか。また時間の経過とともに核種の半減期で減少していくことも考慮して算出されている。そして、摂取後の長期に渡って被ばくする線量の累積値(積分値)をもとに計算された係数となっている。

例えば、下記では、成人が経口もしくは吸入で各種の放射性物質(核種)を摂取した際に、受ける被ばく線量(実効線量)の50年累積(積分)値を求めるための「内部被ばくの線量換算係数」がある。

緊急被ばく医療ポケットブック/内部被ばくに関する線量換算係数


つまり、摂取した放射性物質の量(放射能、単位はBq)に、この係数を掛ければ、摂取してしまった放射性物質から、今後じわじわと影響を受ける「内部被ばく線量」の総量が分かるという便利な数字だ。

そして、「内部被ばくの線量換算係数」にも、全臓器を考慮した「実効線量」を算出するものと、特定臓器のみを考慮した「等価線量」用のものがある。

甲状腺の内部被ばくの影響について

乳幼児の甲状腺の内部被ばくの影響の資料をネットで探したが、あまり良いものが見つからない。

上記の資料の表2に臓器別の名目リスク係数があった。これだと甲状腺の発ガンは 0.33% / 1Sv (ICRP 2007勧告)となるが、こちらは全年齢平均のデータとなっている。

上記によると、10万人の青少年が300mSv以上の甲状腺被ばく、16年間で4590例でうち40%は明らかに、被ばくの影響という記述があるが、どのレベルから影響があるかについては記述がない。

あと、「放射性物質に関する緊急とりまとめ」(3月29日第375回食品安全委員会)という資料があり、ここでは甲状腺等価線量50mSv/年を安全ラインとしているので、ひとまず、このラインを基準として確認していきたいと思う。

また、放射性ヨウ素甲状腺等価線量を求めるための換算係数は、緊急時における食品の放射能測定マニュアル(厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課)*3にデータがあって下記の通り。

ヨウ素 131に関して、経口摂取の場合、乳児は 0.0028 mSv/Bq 、幼児は 0.0015 mSv/Bq、成人は 0.00032 mSv/Bq。

これは逆算すると年間経口摂取量で、乳児は 18,000Bq、幼児は 34,000Bq, 成人は 160,000Bq 以下に抑えることができれば、甲状腺等価線量で50mSvを下回って安全と言えることになる。

東京は大丈夫そうだけど、またダマシがあった報道

ここまで計算して、100Bq/kgを超える水道水は、乳幼児とも許容値まで幅はあるものの、特に乳児は避けるべきというのは良く分かる基準だ。あと、汚染されていない水が手に入らない場合は、一時的であれば飲んでも問題なく、脱水症状を避けるような場合は水道水を使えというのも分かる。

数字を把握して理解できてしまえば、なるほどと思う。

ただ、TVでしきりに言っていたように思う「1年間摂取を続けても大丈夫なレベル」というところと、どうしても計算が合わないと感じていた。100Bq/kgの濃度であれば、乳児で365日摂取で甲状腺等価線量50mSVとなるラインを守るためには、1日 0.49 kgの水しか摂取できない計算になる。いくら乳児でも、そんなに少ないわけない。

あと、ここらへんの基準数字は、水だけではなく食品からの摂取も含めて考えられた値と聞いていたので、水だけで甲状腺等価線量50mSvに達してはまずいし、何か計算間違いをしていたり、実際の基準値はもうちょっと緩くなっているのか、はたまた自分の理解がおかしいのかなと漠然と考えていた。

で、時間ができてから調べてみたら、いろいろとミスもあるけど頑張ってるteam nakagawaさんが、大変ありがたいことに、こちらでしっかりとした「暫定規制値」の計算方法を開示してくれていた。

なるほど、「水」については甲状腺等価線量で11mSvを上限に据えて、水の1日摂取量は「成人1.65kg 幼児1.0kg 乳児0.71kg」という値を採用している。でも、そうすると、ますます計算が合わない。365日と言わず、そんなん56日(「100Bq/kgの水」×「0.71kgの摂取」×「換算係数 0.0028 mSv/Bq」×56日=11.1mSv)*4で超えるやんと考えていたら、同じ悩みをかかえて、バッチリと説明してくれている方々がいた。


ようするに「1年間同レベルの汚染された飲食物を摂取してもOK」ではなく、放射性元素半減期を考慮して「追加の汚染がないという仮定を元に、同一の飲食物(汚染度は半減期に従いだんだん減る)を1年間摂取してもOK」ということになっているらしい。

まあ、確かに東京の水は4月4日時点で 3.8 Bq/kg*5というレベルまで落ちているので、まあ累計で 11mSvを超えることは確かになさそうだ。

でも、この点を含めてしっかりした説明はなかったと思うし、ここでの「1年飲み続けても大丈夫」について間違っていたり、ミスリードとなっていた報道は、ものすごく多かったように思う。

朝日、なんか間違ってるぞ

で、冒頭の副島センセに行く前に、朝日新聞社が、間違いと言って良いレベルのQ&Aを展開していたので、まず、こっちを叩いておきたいと思う。

 Q 農産物の出荷停止が解除されそうだ。制限中の段階でも、菅内閣の高官や専門家は「健康には直ちに影響ない」と言ってきた。

 A 行政として対策を取らなければいけないレベルと、実際に健康に影響が出始めるレベルには、大きな差がある。厚生労働省の審議会が4日に決めた暫定基準は、国際基準をもとに計算されたもの。放射性ヨウ素では、わずかながら健康に影響が出るとされるレベルの50分の1という数値から割り出したものなんだ。

 Q 具体的には。

 A 例えば3月19日には、茨城県高萩市のホウレンソウから暫定基準(1キロあたり2千ベクレル)の7.5倍の1万5020ベクレルの放射性ヨウ素が検出された。これを100グラムずつ1年間食べ続けた場合を考えてみよう。100グラム分に含まれる放射性ヨウ素は約1500ベクレルで、365日間食べ続けると約54万8千ベクレルになる。
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104050242.html:Title
魚拓


最初に、話を放射性ヨウ素に絞っているにもかかわらず、「成人」で話を展開して、幼児なら成人の4.69倍、乳児なら8.75倍とう表現をしている点が不思議だ。そして、その点を考えると「わずかながら健康に影響が出るとされるレベルの50分の1という数値から割り出した」ということはおかしい。明らかに自己矛盾していると言える。

ついで、「わずかながら健康に影響が出始める被曝(ひばく)量は100ミリシーベルト(発がんリスクが5%増)」という形で、換算係数も含めて「実効線量」ベースの話を展開しているように思えるが、ここもおかしいと思う。この理屈で行けば、仮に甲状腺等価線量は20倍として甲状腺等価線量で 2 Svということになるので、発がんリスク 5%というのは逆に大きすぎ(先の「甲状腺は 0.33% / 1Sv 」に従うと全年齢平均で 0.66% アップ)るように感じる。そして、何よりも、単一臓器に影響を及ぼすヨウ素131のリスクを評価するのであれば、「等価線量」を使うべきであり、「わずかながら健康に影響が出るとされるレベルの50分の1という数値から割り出した」というのは、こうなってくると明らかな嘘に思えてくる。

まあ、私自身も、ヨウ素131の内部被ばくにフォーカスしていない形ではあるものの、3月21日時点で似たような計算結果を書いているので、どっちもどっちかなと思う部分もあるので、こちらへの批判はこれぐらいで。

乳幼児は、居住地によるが、ある程度気をつけるべき

先にも書いたが、年間経口摂取量で、乳児は 18,000Bq、幼児は 34,000Bq, 成人は 160,000Bqで、甲状腺等価線量 50mSVに到達する。

これは、全ての被ばくの影響を考えてみると、特に乳幼児では結構シビアな感じがする。

まず、外部被ばくに関しては、甲状腺を選択的に照射したりはしないので、単純に空間線量(Sv/h)を時間ごとに積算して考えればいい。おそらく、甲状腺の内部被ばくに対しては、ある程度小さな値になると思う。

ついで内部被ばくだが、まず外気からの吸入。前回エントリーでも使った、KEKのデータを見ると、最近(3月25日〜4月1日)の、つくばで概ね0.18〜0.25μSv/h前後という空間線量の状況で、ヨウ素131は外気中に0.10〜0.57Bq/m3まで落ち着いてきている。

前回エントリーでは、同様レベルの空間線量で、3月15、16日のデータで、21〜30Bq/m3だったので、KEKの最新データはヨウ素131の半減期以上にヨウ素の量が減っていて嬉しい知らせだ。ここらへんの数字から、実際の吸入用については、「測定できたヨウ素131の比率からの誤差」、外出時間、外での運動量によっても大きく幅はあると思うが累積で50〜1,000Bqぐらいの吸入があっても不思議ではないと思う。これが100倍の空間線量(20μSv/h前後)で100倍の外気汚染があれば、5,000〜100,000Bqぐらいの吸入量になる。

なお、上記は吸入摂取なので、経口摂取に比べておよそ3分の1の影響*6で考えるといいと思う。

あと、冒頭の副島センセのような無謀なリサーチの他にも、京都大学原子炉実験所の今中哲二氏を中心としたメンバーが、飯舘村周辺で放射線サーベイ活動をして、下記の暫定報告をまとめて発表している。

3月28日と29日にかけて飯舘村周辺において実施した放射線サーベイ活動の暫定報告

この発表を見ると、「汚れているのは土なんです」というわけで、ヨウ素131だけで 1,168,000〜3,243,500Bq/m2 の土壌汚染がある。この飯舘村は30km圏外でも例外的に強い放射線量を検出している地区なので、ここを基準に、その他エリアを考える必要はないが、風が吹けば土ぼこりが舞うことも考えると、冒頭で副島センセが言ったような、空間線量20μSv/h前後の地区に、乳幼児を連れて住めというのは、まあ無謀なのは間違いないだろう。

前回の注釈にも書いたが、小さい子供は外で遊ばせたいし、遊んだら砂場とか原っぱとかで放射性物質を付着させて部分的ながら経口摂取、吸入摂取してしまうようなルートもあるだろう。そして、これらに加えて、全ての飲食物からの摂取量の累積を考える必要がある。

まあ飯舘村は極端な例で、一方で東京圏では余裕があるような感じもするが、乳幼児については、高レベルの汚染エリアからは避難させたり、砂埃が舞うような日の長時間の外出を控えたり、土遊びなどで汚染土壌を幼児が摂取や吸入をしないよう、今しばらくは一定の注意するべきだと思う。

そして、食品や飲料

そして、食品や飲料について。これは初期の買占めパニックが終った現状では、放射能をほとんど含まない食品については、もちろん風評被害を避けるべきだろうが、一番大事なことは、乳幼児を中心に、安全な食事をしっかり届けることだと思える。

一番微妙な点は、この規制値が「追加の汚染がないという仮定を元に、同一の飲食物(汚染度は半減期に従いだんだん減る)を1年間摂取してもOK」という設定基準になっているため、基準値ギリギリの汚染度の食品が供給されつづけると、1年もたずにオーバーしてしまうことだろう。

ただ、ここらへんは、あくまで目安で、結構増減がある。身近に幼児がいるので、感覚的にそれで考えると、水で言えば、炊飯や調理に使う分を含めると*71日1kgは確かに摂取することになると思う。一方で、牛乳・乳製品は水と同じ濃度(300Bq/kg)が指標値だけど、まあ多くて0.3kg程度。野菜(根菜除く)はイチゴを含むともうちょっと行きそうだけど、平均すれば1日0.15kgで、そんなもんかなという気がする。

野菜類も全量検査をやっているわけではないと思うので、たまに運悪く濃い汚染のものを食べたとしても、まあ基準設定の前提にもある通りで通りで、ヨウ素131は半減期があるので、原発からの追加でのガス放出がなければ次第に減るし、何よりも全て飲食物が基準値ギリギリというわけではないので、東京圏では長期的に見ても、まず10,000Bqは超えないかなと考えていた。

ただ、最近、嫌なニュースがあって、こちらの食品中の放射性物質の検査結果(厚生労働省報道発表資料)によると、、、

ということで、現在汚染拡大中の「海」からの魚介類についても摂取も気にする必要が明確になってきた。

産経新聞によると、

魚介類は野菜と同一に 暫定基準値で政府方針
政府は5日、東京電力福島第1原発の事故で海水に高濃度の放射性物質放射能)が流出していることを受け、これまで基準がなかった魚介類の放射性ヨウ素131の基準値について、当面の間は野菜類と同一の1キロ当たり2千ベクレルを適用することを決めた。枝野幸男官房長官が同日の記者会見で明らかにした。政府はこの基準値を超えた魚介類を食用としないよう各都道府県に通知した。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110406/plc11040600260000-n1.htm

ということで、魚介類についても暫定基準値が設定された。ただ、これでは全体の整合性はさらに取れなくなっている。また、こちらは汚染水の流失が続いている状況から、ヨウ素半減期をもってしても、新規の汚染からの供給が続くために、長期の汚染が続く可能性もある。

そういった意味では、水・大気・地面が汚染された環境だと、乳児は 18,000Bq、幼児で 34,000Bqの摂取量上限ラインを守るのは、原発周辺30km圏では、結構微妙なラインに思えるし、暫定基準値内の食品でも避けるべきケースは乳幼児に限れば、十分にあるように思う。

規制値設定の趣旨から、政府は乳幼児向けだけでも、暫定基準値をより厳しい値に下げて、できるだけしっかり検査をした方がより風評被害も防げると思うが、いかがだろう。

でも、良い情報もある。

ヨウ素131は半減期が8日と短いので、しばらくの辛抱というところは、再三説明の通り。あと32日我慢すれば、既に環境に放出されたヨウ素131は、さらに「16分の1」にまで減る。

あと、この50mSvというラインでの、甲状腺がんの発がんリスクは、乳幼児であっても相当に低いだろうということ。前述のチェルノブイリは300mSv以上で2.75%程度(10万人16年間で4590例のうち60%)である。また、甲状腺がんの予後は良好で99%の生存率*8という話もある。

(ただ、甲状腺ホルモンの薬剤としての補給を受け続ける必要があり、おそらくホルモン量もぴたっと安定しないので、「生活の質」という面ではダメージは明確にあると思う)

そして、一番の朗報は下記だろう。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、国の原子力災害現地対策本部は2日、福島県川俣町と飯舘村に住む15歳以下の946人について、甲状腺の被曝(ひばく)線量を調べた結果、「いずれも問題なかった」との見解を発表した。

 対象は3月28〜30日に調べた946人。のど付近に検出器をあてて放射線量を測ったところ、全員が、国の原子力安全委員会が定める基準値(1時間あたり0.2マイクロシーベルト)を下回った。最高でも、毎時0.07マイクロシーベルトだった。

 このほか、26、27日にいわき市で、15歳以下の137人に実施した調査でも、毎時0.2マイクロシーベルトを下回った。
http://www.asahi.com/health/news/TKY201104020327.html

子供の被曝「危険な水準はいない」 官房長官 福島原発周辺 2011/4/3 16:20
 枝野幸男官房長官は3日の記者会見で、福島第1原子力発電所の周辺地域の子供の甲状腺被曝(ひばく)を調査した結果、危険な水準の子供は1人もいなかったと発表した。「15日ころに、もし被曝(ひばく)をしていたらという想定で現在の数値を逆算したうえで危険な水準に達している子どもはいない」と述べた。調査は3月28〜30日まで福島県の川俣町と飯舘村などの0〜15歳の900人余りを対象に実施した。
子供の被曝「危険な水準はいない」 官房長官  :日本経済新聞

バックグラウンドを除外して測定できているのかとか、単位がμSv/hというので、どこまで正確に測定されているか若干疑問も残るものの、子供の甲状腺放射能ヨウ素の蓄積量)をダイレクトに測って、安全ラインであれば、これが一番の安心材料だ。

日本人は普段から、昆布ダシなどからのヨウ素摂取量が多いので、低濃度のヨウ素131を吸収しても、世界的な計算基準よりも、かなり低い量しか甲状腺へは取り込まれないという可能性もある。

まあ、何はともあれ、大人はさほど気にせずに、子供にはしっかりとした対策を考えるということを、各個人でも、国レベルでも、今しばらく続けていけば、おそらくリスクがあっても、僅かなレベルで済むだろう。

そして、少なくとも大人は、風評被害なんかおこさないように基準値以下の濃度であれば、普通に飲んだり食べたりしても大丈夫だと思うので、しっかり食べて、被災地の皆様の分も、しっかり働いていこう。


注意: お約束ですが、私は医師でも薬剤師でもないので、上記記述はあくまで参考程度に考えて下さい。内容の確かさレベルとしては、出来の悪い学部生が、頑張って書いてきたレポート程度に考えて頂くようお願いします。なお、間違いがありましたら、コメント欄でご指摘頂ければ幸いです。(前回みたいに質問に答えるのは難しそうですが、間違いは修正したいと思います)


P.S.
前回エントリーのコメント欄で、とても有益なディスカッションをして頂いた、takeshi6925 さん、黒さんありがとうございます。大変参考になりました。

また丁寧な謝罪を頂いた、id:twoten210kakuさんも、ありがとうございます。顔を合わせて話をしていたら、ごちそうするから食事でも行こうと仲直りをしていたところです。お返事遅くなってしまいすみません。

*1:参考:ヨウ素131での治療に関して。http://www.med.shimane-u.ac.jp/radiation/patient/link03.html

*2:原子力百科事典ATOMICAのICRP1990年勧告によるリスク評価の表4

*3:緊急時における食品の放射能測定マニュアル(厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課)のp36にヨウ素131の甲状腺等価線量を求めるがある

*4:team nakagawaでは成人0.00043幼児0.0021乳児0.0037という私のエントリー本文より3〜4割程度大きい値を使って計算していたが、数字の出自が不明なので、ここでは、緊急時における食品の放射能測定マニュアル(厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課)のp36の値を採用

*5:東京の水は4月3日時点 2.9 Bq/kg → 4月4日時点で 3.8 Bq/kgとなぜか増えてるのは、ちょっと不気味。http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303956.htm

*6:成人の実効線量係数の経口/吸入の比率が3分の1であった。乳児、幼児、甲状腺等価線量に関する資料はなかったが、そんなに大きくずれないと思う

*7:ヨウ素は蒸発しないという前提。多分正しい

*8:予後は良好で99%の生存率は、こちらの長崎大学医学部教授 山下俊一の「チェルノブイリ原発事故から20年」に、http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/interna_heal_j/chernobyl-3.htmlより