フリーランスのジタバタな舞台裏/きたみりゅうじ

この本の著者きたみりゅうじ氏は、元プログラマーフリーライターイラストレータとして活躍されている方なので、特にIT業界の方は著者の特徴あるコメント入りイラストを雑誌やネット上で一度は見たことがあるだろう。

フリーランスのジタバタな舞台裏 (幻冬舎文庫)

フリーランスのジタバタな舞台裏 (幻冬舎文庫)

本書は、2005年2月に技術評論社から刊行された「フリーランスはじめてみましたが…」という単行本を改題し文庫化したものだ。内容的には若干古い話になるものの、フリーランスになっていろいろ苦悩し、そして成功していく体験談の中には、時代を意識しなければいけないような話題は一切出てこないので、問題もなく読むことができると思う。


(ちなみに、文庫本ということで、私にとっては前回の書評でも紹介した通りの、お風呂本。)


本書は全編、著者が2001年末に会社員プログラマーを辞め、フリーライターイラストレータとなってから成功するまで、約3年間に渡っての仕事ぶりや日々の生活について、いろいろなエピソードを交えて綴ったエッセイ集となっている。

若干のイラストを交えながら、著者独特のマッタリとした文章的で体験談が語られ、読み物としても単純に楽しめると思う。内容的には具体的なノウハウがあるというよりは、どちらかと言うとフリーになった際の心理状況や心構えについて、実践者の生の声が聞けるというところに主なメリットがあると思う。

起業とフリーランスには共通点も多いと思うが、特にためになったと思えるエピソードは、以下の4つ。


第四章の末尾(p64) 仕事がなかなか決まらないなかで、悪書とも言える内容を要求してきた出版社への対応。

結局三冊分すべての仕事をお断りすることにした。これでぽっかりと当面の予定はなくなってしまったのだ。

目先のお金ではなく、自分のポリシーを優先した、本書で一番カッコイイ場面だ。


第五章の冒頭(p69)。仕事が決まらず、思わずバイトに目が眩むも、思い直す場面。

自分を大安売りしちゃいけない。少なくとも、まだそんな時期ではない。そう思い直した。
「まるでバーゲンセールだな」
そうつぶやいて、自嘲気味に笑った。

このあと、円満退職した前職の上司から3ヶ月100万円の開発案件を回して貰って、一息つくという流れへと続いていく。


第十四章(p200〜)では若干長くなるの引用は控えるが、イラストを値下げしてまでは受注せずに仕事を断りつつ、それが正しいと理解しつつも、苦悩するエピソードが書かれている。


第十五章(p217〜)ではもっと長く第十六章まで続く話として、大学時代の旧友に「稼ぎの金額」で妬まれ、嫌な思いをした経験が綴られている。著者はこの件を仮名とはいえ公表しているわけで、これは邪推かもしれないが、文章のトーン以上に嫌な思いをしたのではないかとも思われる。そういった意味では下記の文章は、非常に重いようにも思える。

そう思って、正直に今年の年収見込みを口にした。
今から思うと、これが失敗だった。


そして、あとがき欄では、在宅フリーランサーになって一番の幸せは「子煩悩でいることが許されること」だと書かれている。これは、本当に羨ましい限りで、不安定で気苦労も多いけれども、実力さえあれば自分のスタイルを貫けるというところこそがフリーの一番のメリットなのだろう。


なお、本書には、もう1つ「文庫版あとがき」というのがあり、2007年12月になってから、執筆当時を振り返ってみたコメントがある。ここでは、本書の底本を執筆したあとも波乱万丈が続いた様子が簡単に語られていて、まるでオチがついたような面白さもあった。おそらくライターという職業の特性もあるのだと思うが、本当に波が大きく、ちょっと成功したからと言って、安泰ではないことだろうか。

文庫で気軽に読めるので、起業や独立を考えている方は、のんびりとしたい心情のときに、一読しておいて損はないと思う。

同書関連ブログエントリー/トラックバック

http://www.kitajirushi.jp/archives/2007/11/21-132729.php:Title
著者のきたみりゅうじ氏のブログでの告知。


http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51005663.html:Title
弾氏のコメントは、フリーorサラリーマン。「どちらに進むにせよ、520円で早まらずに済むのだから安いものである」


http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080119:Title
fujipon氏は、旧友に妬まれた件と、文庫版あとがきの「失敗は棚卸しの好機」が印象的だったとコメント。著者が勤勉かつ用意周到すぎるようで、エキサイティングな展開がないので、あんまり面白くないとの感想もある。


http://blogcq.livedoor.biz/archives/50468598.html:Title
こちらのブログでもいろいろ語られているが、結論は「フリーランスになった人もそれを考えている人も軽く読める一冊として常備したいものだ」とお勧め。


http://d.hatena.ne.jp/seta_tooru/20080315:Title
seta_tooru氏は「カイシャにいるのはラクだなぁ〜恵まれてるよなぁ〜・・食べていく分には。」と思いつつ、現状に悩むというコメント