米国の格差社会を象徴するウォルマート

最近、ここの話題(私の興味)の中心が起業よりも、経済問題にシフトしてしまった。いずれ起業ネタに回帰する予定なので、今しばらくご容赦を。

そんな中、米国経済危機への理解を深めたいという思いから、クルーグマンの「格差はつくられた」を読んだ。第一の感想は「まあノーベル経済学賞を取るような先生でも、結構おやぢ系週刊誌のようなことを書くのね。なんか完全に民主党の宣伝マンだな」ってところだった*1

米国人にはセンセーショナルなのかもしれないけど、日本人が読むと陰謀論っぽく感じる箇所も多くて、そういった点で微妙に書評してオススメするレベルには届かない本だったけど、いくつかの章では具体的な事例も示されていて、今の米国が超格差社会であるというところは理解を深めることができた。

そんな同書の役立つ部分の中で、自動車産業との対比でウォルマートの平均年収の話が出ていた。社会格差考という面でも、また経営的な視点でも気になったので探してみたら、ちょっと古いけど、米国の格差社会を象徴するようなデータが見つかったので、紹介したいと思う。

ウォルマート 役職別平均年収(2001年)

役職 従業員数(人) 構成比 女性比率 男性($) 女性($) 平均($)
リージョナル・バイスプレジデント 39 0.02% 10% 419,400 279,800 405,500
ディストリクト・マネジャー 508 0.21% 10% 239,500 177,100 233,300
ストア・マネジャー 3,241 1.36% 14% 105,700 89,300 103,500
アシスタント・マネジャー 18,731 7.86% 36% 39,800 37,300 38,900
マネジメント・トレイニー 1,203 0.50% 41% 23,200 22,400 22,900
デパートメント・マネジャー 63,747 26.73% 78% 23,500 21,700 22,100
セールス・アソシエート 100,003 41.94% 68% 16,500 15,100 15,600
キャッシャー 50,987 21.38% 93% 14,500 13,800 13,900
合計or平均 238,459 100.00% 73% 27,783 17,777 20,563

※従業員数はフルタイマー、年間平均サラリーにはボーナスを含む。

「元資料:Richard Drogin, No way to treat a lady ?, Business Week, Mar 3,2003」を元にした日経BPの記事の表を孫引き後に、「合計or平均」の行と、「構成比」「平均($)」の列を計算して追加。

単位はドル。最近は1$がほぼ100円なので計算が楽でいい。以下、それで計算する。

まずウォルマート全体の平均年収が205万円程度と、第3次産業だからなのかもしれないけど、米国を代表するような大企業ながら給与水準はかなり低い。安く売るという信念を持った企業だが、従業員給与も安く抑えられているのだ。

この表からはフルタイマーにおける男女差別も明確に見て取れる。それは問題だけど、あまり得意な話題じゃないので誰かに譲るとして、私が一番主張したいのは驚くべき上位マネージャーとワーカーの格差だ。

アシスタントマネージャー389万円から、ストア・マネジャー1035万円への格段の開き。これが超合理主義の行く末ということだろう。よく、米国の格差について、大企業のCEOの報酬が異常に多いという話しを聞くが、そんな雲上人レベルではなく、もっと身近なところに大きな格差が存在するのだ。

そして、ストア・マネジャー以上の構成比は、1.59%とかなり低いため、ウォルマート全体の平均年収が205万円程度となる。正直言って起業を目指すにしても、こういった状況で稼ぐ会社は目指したくないし、以前に正規雇用を増やすイノベーション、正規雇用を減らすイノベーションというエントリーを書いたけど、こういった事例を見ると「薄給フルタイマーを増やすイノベーション」についても考えた方が良いような気がする。


実際に規制がない社会においては、ウォルマートが最強で、既存の中小スーパーなどの小売店を倒産に追い込み、消費者には安くて良いものを提供しつつも、自由市場の覇者として「薄給フルタイマー」を増やしているということだ。日本社会においてはパートタイマーや非正規雇用者という部分が大きいと思うけど、同じ方向を向いているような気がして怖い。

私の政治的信念のポジションって上手く説明できないのだけど、この部分を上手く対処しないと、下記OECDのレポート(PDF)に書かれているように、せっかく縮小した日本の格差が再び拡大する可能性が高いと思う。結局は適切な労働組合ということになるかもしれないけど、なんらか高収益成長企業の労働分配率を高める規制が必要だと思う。

http://www.oecd.org/dataoecd/45/58/41527388.pdf
(この資料、貧困世帯の増加と高齢化っていう要素について言及がない点ではいただけない。この点については、ちょっと前に読んだラーメン屋vs.マクドナルド―エコノミストが読み解く日米の深層/竹中 正治 新潮新書が詳しかったと思う。)


ただ、一方で下記にあるような左翼の方の極端な主張まで行くと、どうしても受け入れ難いと考えている。


http://d.hatena.ne.jp/hokusyu/20081030/p1:Titlehttp://d.hatena.ne.jp/hokusyu/20081030/p1:Bookmark


この日本が本当の自由選択社会だったら、きっと私はゲーム三昧の生活を送って、今頃はネトゲ廃人になってベーシックインカムで暮らそうとしていただろうし、そんな人がちょっと増えるぐらいだったらいいけど、大勢出てしまったら、今の国際競争社会、石油他の資源を輸入するだけの外貨も稼げなくなって、最終的には貧困に苦しむ人が増えるだけだ。

時間泥棒だからゲーム禁止って自己規制するというのが抑圧だったり、ちょっと祭りになった「疎外」の例としては極論かもしれないけど、id:hokusyu氏の言う「機会平等になってない」までは受け入れられるけど、「機会平等だけじゃぜんぜんだめで、結果平等じゃなきゃいけないと思ってます。」のレベルになると、そんなこと言ってると、結局は北朝鮮ソ連のような社会になるよって、猛烈に反論したくなってくる。

ただ一方で、橋下知事は自分に能力や実績あるからと、そうでない人間に対しての配慮が明らかに不足していると思うし、特に既に私学に入学してしまった高校生に対して言うべき言葉は選ぶべきだと思う。私学助成の削減するとしても、今年からやるべきではなくて、15歳年齢の減少に比例する形で、長期的に削減する意向を明確にして、場合によっては公立高校も含めて統廃合を進めるべきだと思う。


ちょっと脱線したけど、クルーグマンの「格差はつくられた」まで戻ると、日本から社会党が事実上なくなって、共産党と民主・自民ぐらいしかまともな政党がないというのは、格差という面では、相当危険だと思う。日本の民主党が米国民主党と同じく、センターレフトのリベラルとしてまともな政策を打ち出してくれるといいのだが、政略ばっかりの党首じゃダメだよね...。

あとクルーグマンみたいなブレインも欲しいなぁ。誰か本当に、オープンネットワーク党を作ってよ。