会社は2年で辞めていい/山崎 元

どちらかと言えば、2年で辞められると困る立場にいるということもあり、本書を買って読んでみた。

会社は2年で辞めていい (幻冬舎新書)

会社は2年で辞めていい (幻冬舎新書)

そうしたところ、まず、思わぬところで勉強になった。

それは、文章を書く上での反面教師と言うと失礼すぎるが、職と賃金というテーマの「だ調(である調の親戚)」の文章を読むと、微妙な嫌悪感のようなものを感じる点だ。著者自身もそれは感じたようで、下記のような文章も出てくるが、お金が絡む話については、かなり注意して書かないと、この嫌悪感のようなものは消せないのではないかと感じた。

働くための、仕組みを考える必要上、ここまでお金に絡む話を延々と書いてきてしまった。我ながら、品のないことであった(p53)

また全般的に、自分がこうして成功したという、「実は一般的なノウハウじゃないことを推奨している成功本」の傾向も多少あると感じた。これは、著者が金融証券業界という、私とは遠い世界に身を置いてきたからということが一番の原因だろう。

そして、私にとって、どうしても反論しておきたい箇所が下記。

ちなみに、経営者や大企業の人事担当で、「若い人で、2回目の転職の応募者は採らない」というようなことを公言する人がいるが、退職理由や、これからやりたいことを聞き、人物を評価して、いい人だと判断できれば自分の判断で採ればいいのだから、これは、不必要な方針発表だろう。
人物評価に自信がないのか、人使いに自身がないのか。あるいは、自分が、偉いと勘違いしているのか(社長や人事部長といった職種にときどき起こる病気だが)。自分の選択肢を狭くしており、言うだけ余計で、愚かだろう。(p86,p87) 

これは著者自身が「自分は偉い」と勘違いしているようにすら思える。よほどの実力者じゃない限り、若いうちから何度も転職を繰り返すとキャリア上不利だし、実際にこういうことを考える人事採用担当は多いわけだから、1度目の転職の際に、しっかりと自分を成長させてくれる良い転職先を見つけて、2年毎に転職をするような事態は、実力がつくまでの間は、できるだけ避けるべきであろう。

(ちなみに、公言しているのは、自分が偉いと思っているわけではなく、お互いの時間の無駄を無くすためだと思う)

仮に私が採用担当者だとしても、面接で見抜ける素質なんてたかが知れているので、職歴を圧倒的に重視するし、なんといっても著者が推奨するように、「2年でやめていい」と思っている人材を採るとしたら、業務を教える労力、業務を習得するまでのタイムラグもあるので、普通の人の3倍以上の生産性を発揮して貰わないと会社にとってプラスにはならないという問題がある。

そもそも、2年+2年の2つの職歴の社会人4年目だったら、まだ4年目ということで一般的には能力が低く、そのため周囲の先輩のフォローも必須になり、担当交代で顧客との関係にも悪影響が出るので、2年でやめる確率が50%以上であれば、相当優秀な人材でも私のいるチームの正社員としてはいらない。

(ただ、キャラクターにもよるが、社会人6〜8年目以上で本当に優秀であれば欲しい。これは逆にチームの若手を指導して貰ったり、オリジナルのノウハウをチームに残して貰えれば、十分に価値があるため。)

まあ、マネージャー側と、管理者ではない被雇用者側の双方の立場で、お互いワガママを言い合っているだけという面があったり、業界の違い*1という面はあると思うが、若い方は、よほど自分の能力を裏付けられる証明がない限りは、「会社は2年で辞めていい」はワンチャンスだと思った方が無難だと思う。

ちょうど、IT業界での転職に関して、長いトラックバック応酬でのディスカッションの流れがあり、タイムリーな話題がある。



2008-02-26

結局、退職を余儀なくされることになり、転職活動を行っておりますが、これでも僕は「自己責任」なのでしょうか?

それとも産まれてきた時代が悪かった。それだけなのでしょうか?


http://app.blog.livedoor.jp/dankogai/tb.cgi/51009734

一つ聞いておきたいのは、なぜこの入社二年目の時に辞めなかったか、ということ。

逆算するとこの時、君は27歳。転職適齢期だ。

こんないびつな組織が回らない、というのがわからなかったのだろうか。

それとも、転職が怖かったのだろうか。


氷河期の猛吹雪にズダボロに引き裂かれた人々と、グングン成長した人たち - 分裂勘違い君劇場 by ふろむだ

だから、id:sync_sync氏が「時代が悪かったのか、僕が悪かったのか、教えて!ダンコーガイ!」と呼べば、ムキムキマッチョのダンコーガイが「やりかたなどいくらでもあった」と答えるのは当然だ。

これはダンコーガイが非人道的だからではないんだ。ダンコーガイに悪意はない。

マッチョマンに尋ねればマッチョな答えしか返ってこない、という、それだけの話なんだ。

ダンコーガイは頭も体もマッチョなんだ。100%pureマッチョなんだよ。

上記、ほんの一部になる3箇所を抜粋させて頂いた。本書の著者の山崎元氏は、東大卒でマッチョで、実力主義個人主義な証券業界であっからこそ、コンスタントに転職を繰り返して、自分自身を成長させてくることができたのであって、そのため平均的なマッチョ度・スキルレベルの人で、普通の国内企業に勤めている人では実現できないノウハウが本書にはいくつか混じっているとの印象を強く受けた。


さて、かなり大きくダメ出しをしてしまったが、本書は一方的な主張と感じられる部分を差し引くと、いいことも数多く書かれている。

特に、「第五章 転職の実際(p206〜) 」「第六章 私の転職を振り返る(p255〜) 」は合計12回の転職歴を持つ著者のノウハウが詰まっていて、本当に転職を考えている方には役に立つと思う。

他にも良いと思えるポイントを箇条書きで紹介する。

・エクイティー(株式)階級、(外資億単位)ボーナス階級、サラリー階級、フリーター階級と4つの階級に分けている。(p15)

・会社の株式をIPOに持っていけるかは、そのときの株式市場のコンディションに大きく左右される(p30)

・業種による賃金の差は経済学でも上手く説明できない謎の1つ(p33)

成果主義には陽気な青天井報酬の成果主義と、決まった報酬総額を社員間で取り合う陰気な成果主義がある(p40)

・人間の感じ方として、プラスの変化(年収200万円アップ)の喜びよりも、マイナスの変化(年収200万円ダウン)の不快感の方がずっと大きい。多分2.5倍ぐらい。(p62)

・人材価値で一番大きいのは、稼ぎに直結する「顧客」をもっていることだ(p96)

・著者の匿名原稿から始まる文筆を例に、副業からの起業についても勧めている(p138) 。また、第四章 女性のためのキャリア戦略には「共稼ぎの妻の副業・起業」という節があり、夫がフルタイムで妻が起業というリスクヘッジスタイルの起業を勧めている(p204)

・「自分会社」を経営する(p142)という節では、自分の労働というサービスを売っている会社を経営している観点を持つことを推奨している。


他にもいろいろと良い言葉は出てきている。良い点も多いだけに、かなりの特殊例かもしれないが、私にとっては「文章力は大事だ」ということと「自分を基準とした一般化トーク」には気をつけたいなという点が、印象に残り勉強になったと思う。

このブログも「だ・である調」で書いているので、同じような過ちはなるべく犯さないように、気をつけていきたいと思う。*2

そして、私の転職は、遠い将来のことになるかもしれないが、自分の会社への転職、すなわち起業になるといいなと思っている。

書評「会社は2年で辞めていい」関連トラックバック

◆著者山崎元氏のブログでは、前書き/後書きの全文を掲載
「会社は2年で辞めていい」が出ました - 評論家・山崎元の「王様の耳はロバの耳!」


◆東 大史氏は、転職経験も踏まえて概ね高評価
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2936


◆Kazuhito Kidachi氏も、いろいろ参考になったとの高評価。また、人材価値を決める三要素を棚卸ししたいとのコメント
http://kidachi.kazuhi.to/blog/archives/002585.html


id:shiumachi氏も良い評価。「夢は10年単位、目標は2年単位」が心に響かないまでも心に残った言葉とのコメント
会社は2年で辞めていい - 科学と非科学の迷宮


◆アグリ氏は半分はあまり参考にならないけど、ためになる箇所は沢山あるとの評価
http://ameblo.jp/sraguri/entry-10063869824.html

*1:著者は証券業界。私はIT業界。IT業界も実力主義ではあるが、中規模以上のシステムではチームプレイが必須であったり、各システムやチーム個別に覚えなければいけないことが多く、証券業界ほどドラスティックに短期間で成果は残しにくいという面が強いと思う。あと、IT業界には、属人的なノウハウがどうしてもあり、辞めたあの人しか分からないシステムの一部が残ってしまうという点での苦悩は大きく、ドキュメントやソースコードの品質に左右される面もあるが、転退職メンバーがいることがチームの生産性を損なう要因となる。チームから外れても、社内のどこかにいれば電話3分で解決することもあるが、退職されるとなかなかそうはいかないため、長く勤めてくれる人を取りたい願望・すぐにやめる人を敬遠するような、採用傾向が強い。

*2:このエントリ自体がそうだっていうツッコミは、ぜひコメント欄へ