稲盛和夫の経営塾―Q&A高収益企業のつくり方/お風呂本1号

本書の内容は、正にタイトルの通りだ。日本を代表する経営者、京セラと第二電電(現KDDI)の創業者、稲盛和夫が開催している経営塾での「経営に関するQ&A」を全部で16個掲載している本である。


ところで、ちょっと話が横道にそれるが、多くの人がそうだと思うが、私も文庫本が大好きだ。私が好きな理由は、かさ張らないし値段も安いし、片手で持てるのでお風呂でも読みやすいから。お風呂での読書は、あまり長時間集中して読めないが、本書のように細切れで読めるカジュアルな本を読むには最適で、長風呂になって健康にもいいし、時間効率もいいので、結構いい習慣ではないかと思っている。(ただ、湯気で若干本がよれるので、文庫本もキレイに保管したいとか、古本として売りたい方にはお勧めできない)

ちなみに、新書も文庫に準じるが、新書の方が微妙に片手でページがめくりにくいので、個人的には新書は電車向きだと思っている。というわけで、ちょっと不純な理由で、カジュアル文庫ビジネス本(?)の書評が多くなるかもしれないが、それも本ブログの特色の1つだと思って頂ければ幸いだ。


さて本論に戻りたいと思う。本書は、2005年3月に発行された「[実学・経営問答]高収益企業のつくり方」という単行本の文庫化とのこと。若干古い情報と言えるが、ただ実際にQ&AのQを発している経営者は、どちらかというと地方でオールドビジネスを経営されている方が多く、さらに稲盛氏の回答もあまり時流に流される内容ではなく本質的な回答が多いので、特に気にすることはないだろう。

本書の基本は、各質問の回答として、随所に出てくる稲盛イズム、「売上を最大にし経費を最小にする」「値付けこそ経営」「高収益を目指せ」「アメーバ経営(部門ごとの独立採算制と、経営感覚・経費削減の意識付け)」にあり、議論の対象として具体的な質問をベースにしているので、稲盛氏の考え方が良く理解できる。

なお、経常利益率にこだわる稲盛氏の考え方(経常利益率10%を目指せ)は、個人的にはそうではないビジネスも知っているので、ケースによっては分かりやすい指標だと思うが、若干共感できない面もある。

一方で特に共感できた話としては、多角化や新規出店などを行う際は、現状のビジネスを徹底的に合理化・高収益化してから、攻めに出ることが重要であるという考え方。これは、間違いなく、その通りだと思うし良い言葉だと思う。

その流れで痺れたのが「本丸と出城の人員配置(p84)」。

海外進出をする場合、普通の会社なら一番優秀な社員を派遣するのが一般的です。しかし、まだ人材が乏しかった京セラから優秀な社員を引き抜いて、アメリカに渡っていったのでは、本丸である日本の工場が弱体化してしまいます。敵に留守をつかれて本丸が落ちれば、我々は変えるべき城を失います。
そこで私は、もしアメリカから逃げ帰ってきた時でも、日本の本丸がしっかりしているなら、生き延びることができると思い、本丸の製造、営業等を、優秀なベテラン社員に任せることにしました。
そして、経験の少ない若手社員を引き連れ、総大将の私自身がアメリカに乗り込んだのです。

これは、なかなか気付けないけど、正しい戦略だと思う。はてなシリコンバレー進出に際して近藤社長(id:jkondo)はこれを知っていたのだろうか。もしかすると、この戦略を社員に紹介してから自身で進出したのかもしれないが、どうだろう。私自身、この総大将出撃作戦は妙にロマンがあり、海外進出じゃなくていいし、会社員の部門長としてでもいいので、一度やってみたい作戦だと思う。


他に本書を読んでなるほどと思ったこと。「業績を直接ボーナスや賃金に反映してはならない(p.44)」という話。この業績連動を嫌う理由は、業績が下がった際にやる気をなくしてしまうということと、業績が上がらない部門の人間がやる気をなくすからとのこと。対策は、業績を上げた場合、功績を賞賛し精神的な栄誉を与えるとのことだ。私はどちらかと言えば業績連動が好きなタイプだが、確かに一理あるなと思った。


なお、本書の冒頭には、「稲盛和夫実学」や「アメーバ経営」と併せて読んで欲しいという解説がある。私は読んだことはないが、本書がおそらく一番カジュアルで、網羅的な稲盛イズムを勉強するには、他の書籍の方がお勧めだと思う。


ところで、巻末に「アメーバ」「アメーバ経営」「全員参加」は京セラ株式会社の登録商標ですとの文言がある。まあ経営分野で「アメーバ」はいいとして「全員参加」が商標ってどないやねんと思ってしまい、じつに微妙な読後感が残ってしまった。

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稲盛和夫の経営塾―Q&A高収益企業のつくり方 | papativa.jp
当たり前のことが多いが、その当たり前が難しい。「本書を読み、稲盛哲学にあらためて接することで、あらためて気を引き締めねばと思った。」とのコメントで高評価


直法弘嗣の書籍紹介 稲盛和夫の経営塾 - 稲盛和夫
経営者ではないが、常日頃考えているマネージメントに関連して、非常にためになる本と高評価。


http://ch04001.kitaguni.tv/e447666.html
盛和塾の塾生とのQ&A形式で進む本書には、経営者として一度は聴いておきたい言葉が盛りだくさんだったように思います」とのコメントで高評価。