エンジェル税制とは

2008.05.25、法改正に合わせて一部修正追記しました。改正後の情報については、こちらの平成20年新エンジェル税制関連エントリーを併せてご参照下さい。

将来、自分が起業家になって資金集めに走ったり、もしくは逆に自分が惚れ込んだ起業家に出資する可能性もゼロじゃないと思って、日本のエンジェル税制について調べてみた。

エンジェル税制とはベンチャー企業が、より容易にエンジェル(個人投資家)から資金調達できるよう制定された投資減税策で、租税特別措置法の「第37条の13、同13の2、同13の3」で規定されている。*1

法庫の該当条文を確認したところ、エンジェル税制は1997年に導入され、2003年に全面改正されているようだ。

なお、通常であればこの時期には成立しているはずの平成20年度税制改正でもエンジェル税制について改正があるようだ。平成20年度税制改正については最後に回して、まずは現行のエンジェル税制について確認してみたい。

エンジェル税制の適格条件

エンジェル税制は、まず投資対象となるベンチャー企業や、出資者となるとなるエンジェルの条件が細かく規定されている。

エンジェル税制適格となるベンチャー企業側の要件は、大まかには下記のような感じだ。これらを全て満たしている必要がある。

  • 設立10年未満
  • 研究者もしくは開発者を2名以上かつ全従業員等の10%以上を擁する
  • 新事業のために売上高のうち一定割合以上の費用を支出(詳細な割合については末尾参考文献の経済産業省のページを確認のこと)
  • 外部からの投資を1/6以上取り入れている
  • 大企業の子会社やグループ会社(孫会社等)ではないこと
  • 未登録・未上場の株式会社で、風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと

※平成20年4月の法改正による新エンジェル税制での所得税控除については、設立3年未満など条件が厳しくなっている。

また、エンジェル税制適格となる出資者、エンジェル側の条件は、下記のような感じになっている。こちらも、全てを満たす必要がある。

  • 投資契約を締結していること
  • 金銭の払込により、対象となる企業の株式を取得していること(既存株主からの売買取得はNG・現物出資もNG)
  • 投資先のベンチャー企業が同族会社(その会社の上位3位までの株主グループ(個人及び親族等)が、当該企業の株式等を50%以上保有している会社)である場合には、持株割合が大きいものから第3位までの株主グループの持株割合を順に加算し、その割合がはじめて50%以上になる時における株主グループに属していないこと *2

なお、認定投資事業組合経由・証券会社経由の場合についても規定がある。詳細な内容については末尾参考文献の経済産業省のサイトで確認して欲しい。

エンジェル税制のメリット

そして、ここまでの厳格な条件を要求する、エンジェル税制の主なメリットは、以下の通り。

  1. 投資時点で投資額を株式譲渡益から控除し繰延できる
  2. 売却益が発生した際に譲渡益を1/2に圧縮して課税される*3
  3. 損失の翌年以降3年間の繰越控除

「1.」は株式で儲けが出ている個人投資家にとって、エンジェル税制の対象となる出資をすることで株式譲渡益課税を繰延できるという話だ。株式譲渡益課税の税率は平成20年現在は所得税7%、住民税3%*4で、エンジェル税制の譲渡益の繰延ができるのは所得税のみが対象だ。利益が1000万円乗った持ち株を売却するのと同じ年にエンジェル税制適格のベンチャー企業へ1000万投資をすると、譲渡益課税される所得税分の70万円分の課税が延期になるという話だ。ここで、課税が繰延されるというのは、所得税計算上、投資したベンチャー企業の株式の所得価額を0円で計算するという形になる。

(なお株式譲渡益課税の税率が10%→20%へと上がるので、じつはこの税制を利用しない方が得なケースがあるように思える)

そして「2」については、もしも投資先ベンチャー企業が首尾よくIPOするに至った場合や、買収されて売却益が出せる場合において、課税額の半額という大ききな金額の節税になる。ただし、条件が2つあり、株式取得後3年以上を経過してからの譲渡であること、また上場した場合は上場後3年以内の譲渡であることが必要となっている。

実際にIPOの可能性があるようなベンチャー企業へ投資をするケースでは、可能な限りエンジェル税制対象とした方が良いだろうが、IPOの実現性の問題もあり、手間の方が大きいと認識されることが多いかもしれない。

エンジェル税制の事前確認制度

2007年から、ベンチャー企業が実際に投資を受ける事案がない時点で、エンジェル税制の対象会社となることを事前確認できる制度が創設された。この事前確認は各管区の経済産業局を窓口として申請する。

エンジェル税制の適格が事前確認されたベンチャー企業は、事前確認書交付企業一覧として、経済産業局経済産業省のホームページ上でリンク付きで公開されるので、宣伝になったり、優良なバックリンクが1つ増えるというメリットもある。

もちろん、エンジェル税制の対象になるというお墨付きがあるので、個人投資家に対して投資候補としてアピールすることができるだろう。ただ、事前審査の有効期限は1年ということなので、申請の手間やコストが大きいようだと、ちょっと微妙かもしれない。

なお、2008年4月1日現在、全国でこの「エンジェル税制の事前確認」を取っているのは、わずかに6社のようだ。具体的な企業名については、末尾の参考文献のリンクを辿ってみて欲しい。

平成20年度税制改正でのエンジェル税制の抜本拡充

経済産業省の平成20年度税制改正のポイントの「エンジェル税制の抜本拡充」という項目によれば、下記のような新エンジェル税制が導入されるらしい。

経済産業大臣の確認を受けた創業後3年以内のベンチャー企業(黒字の場合を除く)への投資について、所得控除(上限:1,000万円又は総所得金額等の40%)を認める抜本拡充(寄付金控除の適用)

従来のエンジェル税制だと、株式投資益が出ている/出せる場合か、ベンチャー投資が成功した場合(前々節で紹介したメリットの「2.」)にしかメリットがなかったのに対して、この新エンジェル税制が成立すれば、以下の2点で画期的だ。

  • 所得控除なので、給与所得などから控除できる。(累進税率が高い高給取りほど節税効果は高くなる)
  • 投資時点で、節税が確定する。

まとめ

  • 個人投資家としては、「ベンチャー投資」と「株の儲けを確定(売却)」を同一年に実施すると、エンジェル税制のメリットを受けて税金を繰延できる可能性がある。
  • 個人投資家としては、ベンチャー投資がIPOなどで大成功し、売却益を得ることになる場合を想定すると、エンジェル税制を活用するべきだ。譲渡益課税額が半分になる。
  • 研究者もしくは開発者が2名以上いて、個人出資主を探しているベンチャー企業は、エンジェル税制を意識した資本政策を取って、「エンジェル税制の事前確認制度」を利用すると良いかもしれない。
  • ただし、劇的にお得な平成20年度税制改正での新エンジェル税制が成立する予定なので、新エンジェル税制の詳細情報を待つべきだ。

disclaimer

私は税理士でも公認会計士でもないため、上記はあくまで参考情報として、実際の投資行動をとる前に正確な情報の再確認を推奨いたします。

*1:平成20年度(2008年)に改正前の時点

*2:この項目、どういう意図で制定されていて、どういった場合に適合するのか私にはいまいち理解できなかった。詳しく知りたい方は、経済産業局の窓口か、お付き合いのあるベンチャーキャピタルや税理士さん等に確認願います。

*3:譲渡益課税の1/2への課税減免は平成20年4月の改正で廃止され、平成20年4月30日以前取得したベンチャー株のみを対象とした経過措置に変わったようです

*4:平成21年からは所得税15%、住民税5%