おもてなしの経営学

私がまだ学生でネットの最新情報を追っかけていた頃のマイクロソフトは、アップルコンピュータGUIを巡って裁判を闘ったり、NetscapeのシェアをIEで強引に奪ったり、PCへのオフィスのバンドルでWordのシェアを強引に伸ばしたり、まあ、マイクロソフトは悪の帝国で、ビル・ゲイツダースベーダーみたいなものというのが、ネット界の共通認識だったように思う。

私自身、その時代はMacユーザで若かったというのもあって、もう10年ぐらい昔の話になるが、当時の刷り込みがいまだに抜けない面が強かった。そういう経歴があるなか、本書「おもてなしの経営学」を読んでの一番良かった点は、ようやく、その長年の呪縛が解けたところにあったような気がする。

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

そう、本書の著者はブログhttp://satoshi.blogs.com/:Titleでも有名な中島聡氏。1986年にマイクロソフト日本法人、1989年〜2000年に米マイクロソフトに在籍し、本書によるとIE3.0をWindows98のシェルに統合したのは著者自身というから、世界のパソコンに大きな影響を与えた偉人と呼んで差し支えないだろう。


まず、本書はタイトルに「経営学」と付き、中島氏は起業してUIEvolutionという会社を経営しているので、起業関連のブログの書評に相応しいと思えるのだが、内容的には「経営学」的な話はあまり出てこないように思えた。

内容的に特に興味深かった点は、3つに分かれるが、まず一番ボリューム感があったのは、後半の古川享氏との対談を含めて、1980年代前後のパソコン黎明期の話だ。妙にノスタルジックで、そそられる部分が多くかった。

続いて2つ目。タイトルにもなっている中心的な話として、中島氏のライフワークとも言える、ユーザインタフェースの話。そこから発展して、ユーザエクスペリエンスを「おもてなし」というニュアンス(意訳)で取り扱い、深く考えようという視点での話だ。

ここで経営的な話で、ソニーとアップルとの違いであったり、商品やサービスの提供者が本当に考えなければいけない、おもてなし(ユーザエクスペリエンス)の話題が出てくる。MBAの教科書でもきっと出てきそうな話だが、インタフェース設計に関わってきた著者ならではの視点は、面白く読めた。

最後の3つ目になるが、個人的に一番面白かったのが「中島聡氏vs梅田望夫氏」の対談を中心とした「ギークvsスーツ」の話。正直言ってここを読めただけでも価値があったと思えるぐらいで、真のギークとも言える著者が、マイクロソフトでの体験や、Googleの現状などを交えて語るのは本当に面白かった。


そして、話を最初に戻すと、本書で熱狂アンチマイクロソフトの呪縛が解けたポイントは、以下のような点からになる。

  1. マイクロソフトの中にいた日本人ギークの中島氏について知ることができた。
  2. マイクロソフトの中島氏でも、やはりパソコンの話題でユーザエクスペリエンスの話をすると、アップルやスティーブ・ジョブスの先進性に話が行く。
  3. アップルも高収益企業になったし、マイクロソフトも可愛くなった。
  4. ビル・ゲイツは露骨に勝ちたかっただけで、Googleとかも似たようなことをやっている。

私も、こういった面で本書に価値を見出すのは、ちょっと偏った見方だと思う。ただ、アンチマイクロソフトな人にも、むしろそういった人にこそ、お勧めできる一冊だと思う。