どうして日本の労働生産性は低いのだろう

財団法人社会経済生産性本部「労働生産性の国際比較・2007 年版」によると日本の生産性は先進7カ国中最下位、OECD30カ国中第20位とのことだ。

1.日本の労働生産性(2005 年)は先進7 カ国で最下位、OECD 加盟30 カ国中第20 位。
2005 年の日本の労働生産性(就業者1 人当り付加価値)は、61,862 ドル(789 万円/購買力平価換算)でOECD 加盟30 カ国中第20 位、主要先進7 カ国では最下位(図1)。日本の労働生産性は昨年(2004 年/59,156 ドル)より2,706 ドル(4.5%)向上したものの、順位は昨年と変わらなかった。
第1 位はルクセンブルク(104,610 ドル/1,334 万円)、第2 位はノルウェー(97,275 ドル/1,240 万円)。米国の労働生産性を1 とすると日本は0.71。対米国比率は2000 年以降ほとんど変化が無い。

2. 日本の製造業の労働生産性(2005 年)はOECD24 カ国中第6 位。
日本の製造業の労働生産性水準(2005 年)は86,608 ドル(955 万円)で、OECD 加盟国でデータが得られた24 カ国中第6 位(図2)。2004 年の第7 位から1 つ順位を上げた。主要先進7 カ国でみると米国に次ぐ第2 位となっている。米国製造業の労働生産性を1 とすると日本は0.89 となる。

この統計情報の計算方法の詳細は知らないが、ここで労働生産性は「就業者1人当り付加価値」なので過労死するほど勤勉で、外国人から見ると意味が分からない「サービス残業」が横行するような国民性からいって、もっと良い値が出ても良さそうなものだ。

以下、エビデンス提示がない適当な考察になるが、いろいろ考えてみた。

1. 経済力に対して弱い円

付加価値比較は「購買力平価換算」だが、この値も為替の影響は受けるはずだ。日本の労働生産性が低いのは、単に円が安いからという理由があると思う。

もう何年もデフレで低金利を続けているのに、あまりレートは動いていない。(本来は、低金利を続けていれば、金利差の分だけ円高に推移するはず)

また海外から見ると日本は投資魅力に欠けるマーケットで、さらに低金利であるにもかかわらず、政府債務が大きすぎて国債のデフォルトやハイパーインフレの危険があり、敬遠される通貨になっているのだと思う。

2.過剰競争・オーバークオリティー

商品やサービスの供給力は高いものの、過剰供給に陥っている分野が多く、結果価格が低く抑えられている市況にあると思う。また、過当競争の中での販売にかかわる労働力を過剰にかけている実態があると思う。販売数を伸ばすために同一価格で、商品の性能や品質、またサービス品質を高めること、また営業時間を延ばすために諸外国より多くの労働力が投入されている。

また、オーバークオリティーの商品はなかなか壊れないので、売れる数が減って、ますます販売競争が激化するという流れも発生していると思う(例:自動車)。

これらは消費者としては快適な社会と言えるが、労働生産性という意味では低くなる社会だと思う。

3.パートタイム労働者・フリーターが多く存在する労働市場

先のエントリーに詳しい資料を載せたが、主婦層を中心としたパートタイム勤務者、若年層のフリーターなど、薄給で働く労働者層が大量にいるような労働市場となっているため、労働生産性が低い仕事の担い手が供給され続け、改善しない面があると思う。

4.年功序列で一所懸命の労働市場

かなり生産性が低い企業であっても、35歳を超える人材の転職マーケットが極めて弱くポータビリティーのある退職金制度がまだ浸透していないので、労働者が生産性が低い企業に留まって、一所懸命に働くという傾向が強い。

低い生産性の企業が多く存在し続けているというだけではなく、倒産しても不思議じゃない企業が生き残っているため、過当競争が続いているという面もあるだろう。

また、労働者が35歳を超えてからは社内の出世競争に必要なスキルのみしか習得しないことが多くなるため、高付加価値経営を実行できるようなマネージャや経営者の比率が上がらない。他にも、たまたま適正がない企業で終身雇用されているケースなどは、転職すれば実力を発揮できる場合もあると思う。

5.多層下請け体質

建設業でもIT土方業でも一緒。大手元請がネームバリューで受注した仕事を、マージンを取って安い下請けに回すという、非効率なスキームになっている分野に携わっている労働者が多い。できるだけ多くの下請企業が単純下請けから脱却するか解散する必要がある。

6.起業家が少ない・起業風土が弱い・投資しない

日本は近年、生産性が極めて高いIntelMicrosoft、CiscoSystems、Googleみたいな会社を生み出して、Worldwideに活躍できるよう育てるということができない。

また、そこまで高い生産性がある企業ではなくても、リスクはあるけど成長余地がある新企業への資金供給力も弱い。これは国民性として、お金をあまり使わずに貯蓄に励む一方で、投資をせずに銀行預金ばかり増えて、銀行の貸し出しも土地担保主義が強い傾向があると思う。

7.狭い国内市場で戦う企業が多い

米国人口は約2.8億人、北米自由貿易協定 (NAFTA、+カナダ、メキシコ)だと4.3億人。EUで4.5億人。それに対して日本は1.27億人。経済圏が小さいために非効率で生産性が下がると思う。Worldwideな販路で活躍する企業も少なくはないが、特別多いわけではないので、ここの影響は一番大きいかもしれない。

8.非効率な政治・行政・公共サービス

大統領制と比べて非効率な議院内閣制。ばら撒き型の公共事業などの利権誘導タイプの政治家が多く、長期戦略に欠ける政治。

優秀な面もあるが、省益や天下り先確保を優先する官僚を筆頭にした行政。建築分野や道路工事などの許認可も複雑で、公務員給与も全般的に高い。(ただ、国際比較では公務員の人数はかなり少ないようだ。外郭団体もカウントするとどうだろう)

公共サービスでは、電力・高速道路・空港や港湾インフラのコストは高く産業に不利だ。一方で医療費には強い抑制をかける行政をしているので患者としてはハッピーだが、医療製薬セクタの生産性は抑制されていると思う。

9.「サービス=タダ」と思っている国民性

チップを払う文化もなく、「サービス=タダ」だと思っている国民性があり、サービス産業やコンサル分野で対価が得られず、高い生産性を実現できていない面があるのではないかと思う。

10.狭い国土での生産性が低い農業

狭い国土で、補助金中心の農業補助政策をつづけた歴史があるため、農業分野の生産性が低いと思う。通貨が安い近隣諸国から生鮮野菜まで輸入しているという面も、農業生産性を下げている一因かもしれない。

まとめ

生産性が低い理由として考えたのは以上になる。対策は、ほぼ前々回のエントリーと同じになるが、以下のようなアプローチが正解になるのではないだろうか。

  • 35歳を超える人材の転職マーケットの活性化。
  • (競争が少ない)新規分野での起業活性化(と労働力吸収)
  • 正規雇用者の待遇改善と、教育強化。

P.S.
7〜10をアップから8時間後に追記しました。
1、6、8を5/17日に修正・追記しました。