新しいベンチャー支援案を考えてみる

池田信夫先生が「ベンチャービジネス」という講義を新しく担当されるらしい。「ベンチャービジネス」を学問として追っかけると退屈な内容になるかもしれないが、正直言って、かなり聴いていてみたい。

それはさておき、池田氏その新講義に関連したブログエントリーで日本の「ベンチャー支援」について批判をしているのだが、何かいいベンチャー支援策ができないものか考えてみた。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/f199d44627e35752d0a2527692d6da8e:Title

重要なのは大企業か自営業かという違いではなく、技術力があり収益モデルがしっかりしていることだ。いいかえれば、必要なのは企業としてのstartupではなく、イノベーションを生み出すentrepreneurshipなのである。したがって必要なのは、政府系金融機関などの甘い査定による「ベンチャー支援」ではなく、企業を見る目をもったVCなどの評価システムと、リスクを市場で分散する株式ベースのファイナンスである。


本書は、私の読んだ限りでは、有名なThe Origin and Evolution of New Businessesと並んで数少ない、起業家についての具体的データをもとにした経済学的な分析である。特に「1円起業」や無担保融資で「ベンチャー育成」ができると思っている官僚諸氏には、ぜひ読んでほしい。

確かに池田氏の言うとおり民間VCは活性化させた方が良いように思える。でも、これはエンジェル税制という面でも強化されてきていると思うし*1、株式市場もIPO基準が甘すぎるんじゃないかというぐらいベンチャー向けのマーケットが、インフラとしては整備できているように思える。

ただ、足りないのはそのインフラに乗る優良ベンチャーそのものだと思う。本来、ベンチャーというのは多産多死の生き物で、アントレプレナーシップに溢れ、かつ優秀な起業家のアグレッシブなチャレンジが一定数あってこそ、少ないながらも成功例が生まれるのだと思う。

そして、日本において起業家が少ない一番の理由は、商業銀行が事業内容にまで踏み込んでの融資判断をせずに、すぐに経営者個人の連帯保証を取る風習だと思う。起業についてはいろいろ脳内シミュレーションしている30代後半の私の場合、この個人保証の大きなリスクに加えて、もし失敗した場合に会社員として良い条件で戻れる場所が少ないという新卒優先の年功序列経営社会もネックになっていて、起業も転職もせずにサラリーマン勤めをしている方が圧倒的にメリットがある状態にあると思っている。*2


ここで「銀行が個人保証を取る」ことに罰則規定とかを設けることができると経営者の自殺も減ったり、失敗後に2度目のチャレンジに挑む起業家も増えていいのだろうけど、個人保証を取らないと、モラルハザードが発生する可能性があったり、もしくは融資実行そのものが減って金融収縮が発生しまうこともあるだろうから、微妙な問題である。*3


そういうわけで、明らかに米国にあって日本にないのは、アーリーステージで活躍するエンジェル(当然個人保証なし)であったり、事業内容まで踏み込んで「個人保証なし」で融資を実行してくれる商業銀行だと思う。ただ、確かに池田氏の言うとおり、広く浅く貸す金融公庫の国策融資では、効率的なベンチャー育成は難しいのではないかと思う。


そこで考えてみたのだが、「政府機関が受け手となる特殊転換社債」を使った融資制度を作ってみたらだろう。部分的だが個人保証も必要で、相応の利子も設けてモラルハザードを防ぐ。審査は、まあお役所レベルでいいだろう。*4

具体例としては、資本金1000万円で起業した会社が、2000万円の融資を受けるとして、30%の個人連帯保証として600万円に限定した個人保証を付けつつ転換社債を発行する*5。この社債は基本的に15年の満期で利子が年率6.5%*6かかり、元本返済をしたくても満期まで返済できない。ただし、500%コールオプション付き転換社債になっていて、融資時点の6倍以上の時価株価での出資者が現れた時点で、政府機関が転換と同時に出資者へ売却する。

ここで、h資本金1000万円発行済み株式数が1000株として起業した会社が、起業直後時点で上記2000万円の上記融資を受けた場合では、時価増資で1株6万円の出資者が現れた時点で、政府機関が上限400株までを@5万円で転換して出資者へ@6万円で売却する。転換増資してもキャッシュフローが増えないのはちょっと寂しいが、結構高利な有利子負債が減るわけなので、悪い増資ではないだろう。

収益状況や財務状況、また成長余地にもよるが、ある程度高い株価で時価増資できるぐらいに成長すると、日本の銀行でも個人保証なしで融資してくれるところがあると思うし、実際にVCの出番というのは、これぐらいの条件をクリアしてきた企業に対して、大量のホットマネーを注ぎ込んで、IPOに向けて邁進するというケースもあるだろう。

ようはROEを上げる気がなかったり時価総額を増やす気があまりないスモールビジネス系の起業家へは、国策融資が行こなわれないような仕組みを考えつつ、個人保証を制限したベンチャー融資を強化すればいいと思って考えてみたのだけど、いかがだろう。


P.S.
ベンチャーに直接関わったことないので、500%コールオプションという倍率設定自体は計算しやすい適当な数字です。おかしいと思われるVC関係者などいらっしゃいましたら、ぜひ適正値をコメントでご指摘下さい。

*1:前に中途半端な記事書いたけど、その後、新エンジェル税制の法案通ったんだっけ?

*2:個人保証の問題の他にも、まだまだ起業するには実力や人脈が足りなかったり、まだまだ今の職場で成長できるような仕事があったり、もっと起業資金を貯めなければとか、まあいろいろあって、起業について考えているのは趣味の一種のような状態なので、ここは起業ポルノなのだ。ただ、何かの理由でサラリーマンを辞めることになった際のリスクヘッジという意味では、こういう趣味も悪くないとも思う。

*3:余談になるが米国での個人保証についての面白い記事があった。→http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20070412/122574/:Title

*4:もしくは商業銀行を主体にして、政府機関は保証に回る形でも可。

*5:社債としては劣後債だけど、個人保証や利子債務は劣後にしないとか、細かく考えるといろいろありそう

*6:15年満期で利子が年率6.5%だと、15年経過時点で、合計すると利子総額は元本と同額に近い97.5%になる。なお、2000万円借りた場合の年額利子は130万円なので結構なプレッシャーになってくる。