「泥のように働け」の経営者に学ぶ人事雇用術/人事雇用【6】

学生に対して「まず10年間は泥のように働け」という経営者たち。彼らから、もし起業した場合に経営者として求められることが、4つばかり学べたので、順に書いてみようと思う。


元ネタは下記2つの記事だが、今回はマイルド*1と言われるITproの記事から引用して行きたいと思う。

「10年は泥のように働け」「無理です」――今年も学生と経営者が討論:IPAイベントにて - @IT
「IT技術者はやりがいがある仕事か」---学生とIT産業のトップが公開対談 | 日経 xTECH(クロステック)

1.若者目線と自分目線を混同しない

「IT産業の仕事はSEとプログラマだと思われている。それよりも,どうビジネス化していくか,どうプロジェクトマネジメントで500人,1000人をマネジメントしていくかが大事。そういう職種についてちゃんと説明してきていない」
CSKホールディングス 取締役 有賀貞一氏

1000人を率いていく人材っていえば、同期が100人いたら、そのうち1人か2人だろう。仮に外注や派遣を使いまくるとしても、せいぜい3倍程度に増えるとしても5〜6人だ。さらに、そのマネジメント職に就ける時期は、その選ばれた一部の人達であっても、平均すれば20年後ぐらいの、遠い将来の話だろう。

CSKみたいな大企業の取締役だったら、普段接する社員はベテランエリート社員ばかりかもしれない。ただ、採用関連の場で、そんな低い確率でしか成立しない遠い将来の話をしても、全く意味がないだろう。気をつけよう。

2.若者に10年なんて気の長い話をしない。今、燃えればいいだけ。

「まず10年間は泥のように働け」という,伊藤忠商事 元社長 丹羽宇一郎氏の言葉を紹介した。

(中略)

「10年たてば環境や必要なスキルは変わっているのではないか」

(中略)

「商社くらい変動している産業はない。IT産業も変動している。変動に対応した仕組みを作っているところが勝つ。その底辺に流れているのが『10年』」
NEC代表取締役社長で現IPA理事長 西垣浩司氏

後半の言い訳がましい押し付けと、10年へのこだわりは、本当に意味不明だ。ご老人には10年はあっという間に過ぎる年月かもしれないが、若者にとっての10年は、半生にも思える長い時間だ。

ハードワークが才能や能力を伸ばすという面はある。頭をフルに使うようなハードワークを若い間にやれば、間違いなく能力は伸びるだろう。ただ、それを押し付けては伸びない。これはN社は10年間下積みしないと、昇進させない年功序列&非成果主義をとっているからだろうか。

「10年」とか言う前に、今すぐ若者が燃え上がるような環境や言葉を用意して、気付いたら優秀な人材になっていて労使ともハッピーというのが、経営者に求められる手腕だと思う。

こういったことを、いまどきの新卒学生に向けて語って、空気読めずに「10年」を繰り返し語っている時点で、経営者失格だろう。あと、少数精鋭で人を大事にする一流総合商社の伊藤忠(社員数4,222名)の考えを、IT業界メーカ(N社=単体22,698名、連結154,786名)に転用できると考えている時点で、痛々しい。*2

よい反面教師として活用しよう。

3.優秀な人材を、拒否してはいけない

「数として欲しいのは,金融システムなど企業の大型システムに従事する人間。こういった領域では,個人の能力よりは業務ノウハウが重要。プログラマとして優秀であっても,業務を理解しないと,よいシステムができない。技術だけを評価して処遇することは企業としては難しい」と答えた。「天才プログラマのように技術を極めるのであればそれを生かす道に行くべきであって,企業に入って大型システムを開発するのはもったいないか向いてない」
NEC代表取締役社長で現IPA理事長 西垣浩司氏

ご出身のN社で活躍している天才プログラマもいっぱいいると思うが、全員転職して欲しいのだろうか。西垣氏は「未踏でスーパークリエータに認定された技術者が3人Googleに就職したが,それはいいことだと思っている」という話もしているので、スキルと職場のミスマッチに悩むような新入社員が入る無駄を回避して、相互にデメリットがないようにしたいのだろう。

ただ、優秀な人材は、まっとうな経営者であれば喉から手が出るほど欲しいはずだ。

「最初のうちは給与はここまでしか出せないが、チームワーク重視じゃない少数精鋭プロジェクトなどの環境は用意するから、ぜひ入社して欲しい」という感じのスタンスを見せずして、組織運営も人材採用も上手くいくはずがない。N社の社内からのため息が、ここまで聞こえて来そうだ。

彼らは一方では、「コンピュータ・サイエンスの学科を増やさないと問題は解決しない」と、専門的な学生が足りないとも言っているのだ。こういうごく単純な論理矛盾にすら気付かない方々は、少なくともIT業界からは消え去った方が良いかもしれない。

優秀な人材に対して、ベクトルはどうであれネガティブな話をして拒絶しては組織が腐るし、採用も上手くいくはずがない。気をつけよう。

4.空気読む。急に幼稚にならない

学生からは「IT技術者の生産性は人によって大きく違い,普通の人の10倍の生産性を上げる人もいる。それなのに,入社時に評価されるのは『コミュニケーション能力』など。技術をつけてもつけなくても一緒なら,頑張らなくてもいいとなってしまう」という声も出た。

 IPAの西垣氏は「情報処理技術者試験などの資格をとれば手当がつく」と答える。

ここでも、空気読めずに、突然、自分の組織(Wikipediaによると情報処理技術者試験センターIPAの下部組織)の宣伝を始める。何かのボケかとも考えてみたが、どうやら違うようだ。

ここまでひどい人は珍しいが、年をとると、急に頭が悪くなって、空気も読めなくなることがあるらしい。気をつけよう。

優秀な人を上手く評価して、できるだけ活躍して貰うような仕組み作りは、生産性を上げ収益を上げるための基本中の基本だろう。「それは、大企業にとっては課題だ。ただベンチャー企業だったら、ストックオプションとかで評価してくれる会社はいっぱいある。」とか、立場相応の回答をして欲しかった。


以上、なぜだか、どれもすごく当たり前のことになってしまった。
いかがだろう。

*1:ITproを発行している日経BPにとってNECCSKは大きな広告主のはず

*2:一流総合商社への就職は当然大人気であり、希望倍率も高いので、伊藤忠の経営者としては戦略的に正しい発言だが、IT業界は必要レベルの人材の確保ができずに、3回生に対して1月頃から内定を出し始めているのが来春新卒採用の状況であり、事情が違うと思う。今回の件は、IPA理事長という立場にあるにもかかわらず、情報産業を衰退させる罪深い発言だと思うし、現状認識甘い人間が業界のトップレベルにいるということ自体も、問題のような気もする。