バブルと失われた17年の世代ギャップ/その先

日本経済そのものに存在する世代間格差について、バブルと失われた17年に絡めて説明して、今後の日本についても語ってみたいと思う。*1

1.将来から収奪して逃げ切って行く団塊勝ち組

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4400.html

まず、上記グラフを参考に、日本の経済成長(GDP実質年率)を3段階に分けると、およそんな感じになる。ちなみに団塊世代とは狭義には1947年から49年に生まれの800万人。ちょうど今60歳になって定年を迎えていて、下記高度成長の真っ只中に社会に出た世代になる。


56年−73年、平均9.1% 高度成長期〜日本列島改造ブーム
74年−90年、平均3.8% オイルショック〜回復・円高不況・バブル
91年−07年、平均1.3% 失われた17年(89年消費税導入・97年同増税

そして、政府債務は失われた17年の前後で「91年の278兆円」から「07年の772兆円」に増えている*2
。この17年間の増分を1年あたりに平均すると29兆円。国債利払い181兆円*3全部を除外してもGDPは年間あたり18.4兆円のゲタを履いた状態であり、GDPをざっくり500兆円で計算すると、ゲタは年率3.7%相当になる。*4

まあ、1.7%成長でも17年も続けばそれなりの成長で、ゲタは1度外してそのまま継続すれば、2年目からは前年比寄与は0%なので、ゲタを外してもそれなりには成長している。ただ、17年間平均で−0.5%程度のデフレでもあり、成長というより現状維持を続けた経済だと言えるだろう。

そして、一番の問題はこの程度の景気を維持するために、500兆円もの借金が新たに作られてしまったことだ。大規模な経済崩壊が避けられたのは幸いだし、税収が落ち込んだとか、日本国内で余ったキャッシュの行き場がなかったということもあるだろうが、景気対策での公共投資は、生産性が低いオールド企業を生かすためだけに実行されたようなもので本当に許しがたい。公共事業中心のゼネコンの倒産は今後本格化するだろうが、10年遅かったと思う。

そして、これからは、もう借金は増やせないレベルなので、シビアな財政運営を続けるしかない。増税すれば景気は腰折して不況が到来するかもしれないけど、高齢者医療も年金問題も待ったなしだ。甘んじて増税と不況を受け入れるしかない。ただ、もうバブルの後始末のような事態を招いて、大量の公金投入するようなことは財政上できないので、なるべく柔らかい不況にして、それに耐えて、生産性を高めて這い上がっていくしかない。

親の作った借金を負担するのは、子供の務めだから、これからも一生懸命働くね。

でも、バブル後の不景気でリストラにも会わず、しっかり退職金を受け取って定年退職していく団塊勝ち組は本当に恵まれている。羨ましい限りだ。早く相続税を落としてくれとは言わない。定年退職して余暇ができて、老後不安がないぐらい貯めこんだ人は、そのお金を死蔵せずに早くどんどん使って欲しい。

そうそう、これは半分ネタだけど、ナイーブな増田さんがいた。

http://anond.hatelabo.jp/20080616012551:Title

これは逆にね、一旦預金封鎖して「5億以上の資産を持った金持ち」の5億以上の部分を電子マネーにしちゃって、例えば毎年「5億を超える額/(平均余命+20)」は使わなくても減るようにして、嫌でも消費しなきゃいけないように追い込むと、景気は回復してすごくハッピーな日本国になると思う。

あと「現預金資産をタップリ持っているけど投資をしない企業」の現預金にも1%ぐらいの資産税をかけるといいかも。


2.高度成長の幻想で敗戦

先にも掲載した日本の成長率のおおまかな推移。


56年−73年、平均9.1% 高度成長期〜日本列島改造ブーム
74年−90年、平均3.8% オイルショック〜回復・円高不況・バブル
91年−07年、平均1.3% 失われた17年(89年消費税導入・97年同増税

戦後日本は急速に成長した。所得が増えて、消費が増えた。カラーテレビ・クーラー・自動車。3C/三種の神器とも呼ばれる製品を手に入れるために必死で働いて、そしてどんどん作って、どんどん売れた。オイルショックで高度成長が終わっても、輸出を伸ばしてどんどん作った。

そして、マイホームブームにも沸き立った。

http://allabout.co.jp/house/buyhouseshuto/closeup/CU20080402A/

上記にグラフがあるが、地価は一旦オイルショックで下落に転じたが、その後は上がり続ける。土地神話が健在で、将来値上がりしてから転売すれば転売益も出るので、多少きついローンを組んでもマイホームを手に入れようする人が増えた。マイホームを手に入れれば、家具も家電もまた売れる。そして、円高不況でも必死で生産性を向上させて、海外進出も果たしながら、成長率は鈍化しつつも成長は続けた。


でも、これって結局は日露戦争で奇跡の勝利を掴み、そのイメージで日中戦争、太平洋戦争に突入していく戦前の日本と同じだったんだ。高度成長のイメージが抜けず、年功序列人事の拡大路線を継続する企業。土地神話を信じて、バンバン借金して、土地を買いつつ「含み益経営」をする企業。

そして年功序列の幻想を信じて、将来の昇給を見越して、巨額の住宅ローンを組んでマイホームを手に入れる労働者。結果として地価は高騰し、消費は過剰になった。企業収益も増えて金余りになる一方で、もはや商品需要は飽和していて、円高や経済摩擦で輸出も厳しく、有効な設備投資対象がない。余ったマネーはさらに地価や株価を押し上げ、バブルは膨らんでいった。象徴的な事件として、三菱地所ロックフェラー・センターを買収したのは1989年のことだ。

そして、バブルは崩壊する。総量規制なんてほんのキッカケだ。みんな土地は上がり続けると思い、実際に上がっていた。土地や株の資産効果で、みんな計算上では、凄いお金持ちになっていたので、いいかげんに散財もできた。でもバブル崩壊したとたんに、計算上では急に貧乏になったり、逆に資産より借金の方が多いような状況に気付き、消費は急に落ち込んで長期不況がやってきた。

それでも日本企業は一見は持ちこたえた。しかし、タイバーツからのアジア通貨危機があり、そして最悪のタイミングでの、消費税5%増税をはじめとする橋本内閣の財政再建政策が実施され、これが止めを刺すことになる。日本企業、特に銀行はバブル崩壊のダメージである不良債権を表に出さずに隠していて、継続して下落する地価と、そしてこの緊縮財政によって不可避な破綻状態が露呈し、連鎖的に経営破たんが広がっていった。


地価というのは下方硬直性があり、急には下がらない。1つ1つの土地の性質が違うから、もしかしたら高値で売れるんじゃないかなと思って、持ち主が売り値を下げないから、じわじわとしか下がらない。日本の地価は先のリンク先のグラフにあるように、全国平均では実に15年間も下がり続けて、ようやく上昇に転じるのは2007年のことだ。この間、ずーっと逆資産効果がかかっていて、景気にブレーキが踏まれていた状態が続いていたことになる。

ぼくたちが社会に出たときは、バブルは終わっていた。ぼくたちの親は、バブルをまんきつして、リストラされずに生きのこったら、ねんこうじょれつで、しゅっせしていいよなぁ。なんか、こんな不況がつづく中、まじめに働くのがバカバカしくなっちゃうよ。

って、本当にバカになってたら、今の世の中では直ぐ淘汰されてしまうので、真面目に働くけどね。そうそう、親の作った借金を負担するのは、やっぱり子供の務めだから、その分も働かないといけないしね。

3.ヒルズ族はバブルの子供だし、もっと持てはやさなきゃ

ホリエモンこと堀江貴文容疑者に代表されるような、金さえあればという現代の若い世代のラベルとして定着させられつつあるイメージ。でもこれは、多感な思春期にバブルの片鱗を見て育ち、社会に出るときにバブルが終わっていた世代であり、バブルが生んだ子供だろう。私は商売のやり方を中心に、昔からホリエモンのことはあまり好きじゃなかったけど「金で買えないものは何もないよ」みたいな風潮はバブル時代の方が強かったんじゃないかなと思う。

あと、繰り返しになるけど金持ちが金を使うことは、今の日本にとって何より重要なことだと思う。犯罪はいけないけど、物言いが多少悪くて目立とうが、フェアに稼いで、ばんばん金を使ってくれる人を白い目でみちゃいけない。世間が不況のさなか、異端児的にITバブルが一瞬盛り上がったからって、今なおヒルズ族に嫌悪感を持つ人が多いような気がするけど、ダメだよ。もっと尊敬しなきゃいけないと思う。

ちなみに村上ファンドの村上容疑者は、私は大好きで、彼を逮捕するなんてモッタイナイことをするなぁと思っている。彼のインサイダー事件は、考えようによってはアウトサイダーだし、彼みたいな人間がマーケットにいた方が、日本の景気は絶対に良くなると思う。

ポイズンビルとか買収防衛策とか、そんな甘っちょろいバリア作って自己保身に走る経営者は、退陣して貰った方がいい。企業の内部留保を奪うことだけを狙うような買収はまあ微妙だけど、ヘンな規制かけて市場を歪める方が、不利益は大きいと思う。


4.あと、やっぱりロスジェネ世代の非正規雇用者ぐらい責任持って救済しろ

それで、親の作った借金を負担するのは、やっぱり子供の務めだから、一生懸命働くから、生まれた年代だけでえらく不幸な境遇にある、ロスジェネ世代の非正規雇用者は、社会的に救済しよう。

さすがにこれ以上、繰り返し書くのあれなんで、リンクを貼って済ませておきたいと思う。


俺の手も血で汚れているけど、今、無事に定年退職していく団塊世代の手は、もっともっと汚れてる。


5.増税しよーぜい

97年の橋本内閣が消費税増税したときは、あまりにも銀行の内情も悪かったし、地価も転落している最中でタイミングが悪すぎた。あと、あのときの経験として、税率アップ前の駆込み需要の反動として官製不況ができるのも分かった。

だから、毎年の年度切れ目で変わる計算や、見積書とかが面倒だけど、消費税を年々1%増税するようにしよう。そして経済動向や財政状況を見ながらアップを止めるってことにすればいい。これって擬似的にインフレ期待だし、経済が悪化したら増税がストップするという安心感もあって、受け入れられやすいと思う。

消費税が逆累進だっていう話はその通りなので、生活必需品不課税か、子育て世帯&低収入者保護みたいな政策と抱き合わせるといいだろう。

増税したって年1%ぐらいなら生産性アップで企業もカバーできるし、日本の国家財政に持続性があると思えば、国際評価も上がって投資も増えるし、老齢者も安心して財産を使えるので景気が上向く効果があると思う。あと早くお金を使った方が、低い税率で買えるというバイアスもかかるので消費も活発になるはずだ。

増税反対でみんなハッピーになれるんだったら、それは全員賛成だよ。でもね、それは無理だ。医療もそうだし、福祉もそうだし、少子高齢化もそうだ。いろんなところで無理が出てきている。だから、増税を先送りして、若い世代に借金を押し付けるのって、もう、いいかげん止めにしない?

ま、慌てても仕方ないので、まずは省益天下りなどなどの無駄な支出を削りつつ、2012年に成立するかもしれない橋下内閣に任せれるように、ブレイン候補の方、しっかり考えてみておいて欲しい。

(さすがに成立しないと思うけど)

*1:私は経済学は新書レベルでしか知らないし、投資家としてもシロウトに毛が生えた程度の経験しかないので、トンデモなく間違っていたらすまない

*2:参考PDF http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/siryou/sy2003h.pdf

*3:右記エクセルファイルの SUM(X32:X59) http://www.mof.go.jp/kankou/hyou/g661/661_03.xls

*4:ここで、国債の純借り入れは、全て政府最終消費支出・公的固定資本形成・公的在庫品増加に寄与したものとして考えている。もし考え方が間違っていたら指摘下さい