起業にチャレンジするに当たっての4つの選択肢

私は、結構真剣に起業すべきかどうかについて悩んだり考えたりしていて、それでいて現時点の結論としては普通の会社員として過ごすことにしている。このブログは、起業への想いを忘れないことや、スキルアップ・情報収集へのモチベーション維持、また起業への想いガス抜きなどを兼ねているのだが、末尾にまとめた磯崎哲也氏と池田信夫氏の面白い論争*1の中の下記エントリーを読んで、起業にチャレンジするかどうかで考えた選択肢を思い出した。

これから「ベンチャー企業」を設立しようという人に口を酸っぱくして言っておきますが、池田さんが設立に関わられた企業のように、金融機関からの借り入れで(個人保証等までして)ベンチャー企業を立ち上げるのは、基本的に絶対やめるべきです。例外を考慮せずあえて断定的に言っておきますが、財務戦略として間違ってます。
http://www.tez.com/blog/archives/001189.html:Title

私が考える起業にチャレンジする方法としての選択肢は、大きく分けると4つあって、特に上記が関わる部分では、私はまだ悩んでいるのだが、他の起業志望の方の参考になればと思い、簡単に説明してみたいと思う。

1.他の起業家のスタートアップに参加する

これは、起業する目的がお金であったり、社長というポジションが欲しいからという人だと意味がないが、起業というお祭りに参加したり、自己実現のようなことが目的であれば十分魅力的な選択肢だと思う。一番の問題は、魅力的な起業に上手く参加できるようなチャンスがめったに来ないことだろうか。

あと私の場合は、普通の会社員としてのポジションが悪くないのもあって、待遇面で同条件*2を求めるのが苦しいという問題もあるかもしれない。

もの凄く気が合う起業家のスタートアップに対して、共同経営者のような立場で参加する可能性はあると考えているが、個人的にはあまり考えていない選択肢になっている。(歳を取って、家庭もあって、あまり他力本願のリスクを取れないというのが本音かも)

2.一般企業に就職して社内ベンチャーを立ち上げる

社内ベンチャーは成功率が低いと言われているが、失敗した場合のリスク回避という意味では魅力も大きい。また人的資源や社会的信用などリソース面でのメリットもある。一番の問題は社内ベンチャーを実施するような企業へ就職し、経営陣の信用を勝ち取り、さらに本業とのシナジーが見込めるようなビジネスアイディアを立案できるかどうかというところだろう。他にもデメリットとして、成功した場合の金銭的メリット(儲け)や、所詮は子会社なので経営的自由度が少ないという点もある。

社内ベンチャーが失敗しやすいのは、第三者的なチェックがあまりかからないのと、絶対成功させるというベンチャー経営陣の情熱が足りないこと、また親会社とベンチャー経営陣の意見の相違から中途半端な経営リソース投入となりがちな点があるのではないかと思う。やるんだったら、いかに全力でやれるかというところが勝負だと思う。

私の場合は、普通のリーマンをしている理由として、実はここにも大きなウエイトがある。もう就職して10年以上になるが、この選択肢を取る上では客観的に見てもかなり良いポジションを取れているのではないかと思っている。ここの夢は諦めていないし、虎視眈々と狙っている選択肢の1つだ。

3.スモールビジネス起業

磯崎氏も書いているが、特にウェブ系起業を考える場合、小中規模のものであればスタートアップ資金はそんなには必要にならないし、開発するシステム規模にもよるが若干の公的融資を受けるだけで十分な場合も多いと思う。

副業・週末起業というような形態からスタートしてもいいし、ここで言うスモールビジネスは「はてな」のように営業キャッシュフローや借り入れの範囲で成長し、IPOを目指さないスタイルを維持する形態になる。ただ、収益化を達成しさらに大化けする見込みが立ったら、そこからベンチャーへと進化するようなパターンもありだと思う。

おそらく一番悪いのが中途半端に資金需要が必要な事業計画に基づいて借り入れに頼るような起業戦略であり、小規模でも確実に収益が上がるビジネスモデルを構築できない限りは、自己資金や借入資金を使うスモールビジネス起業は経済的合理性がなく、選択しない方がいいのではないかと思う。

ただ、私がもしも起業をするとしたら、ウェブ系起業を選択して、スタート時点はここを選択することになる可能性も高いのではないかと思っている。

4.ベンチャー起業

ベンチャーキャピタル(VC)が出資するだけの魅力的かつ大規模な事業計画を作り、比較的短期間でのIPOでのイグジットを目指す。

短期(10年前後)でのIPOを目指す必要があるため、相当なハードワークを要求される一方で、VCからの資本資金の調達や、VCからの経営援助を受けられるという面でメリットが大きい。

ただし、IPO成功のためのプレッシャーが強く、資金を使ってリスクを取って成長を目指すギャンブル的な要素が多くなったり、時間的制約から無理を強いられることが多くなる。またIPOやバイアウトの見込が薄くなった場合に、VCとの間の投資契約に基づいて出資分の株式の買戻しを要求されるようなケースもあると聞く。

VCが出資するような規模で、魅力があり成功確率も高そうな事業計画を立てられるかどうかというところが問題で、エンジェルからの出資も含めてシードステージ・アーリーステージの資金需要をクリアしたり、成長に応じてバランス良く人材確保をしたり、いろいろと一筋縄では行かないところも多いと思う。また、当初の事業計画に行き詰まりが生じた場合の方針変更など、資金を集め続けるためのタイトな成長戦略を維持することも必須となることも多く、こういった面でもベンチャー経営者には虚実の使い分けを含めたタフネスが求められることが多いと思う。

なお、「スモールビジネス→ベンチャー」の成功例は良く聞くが、逆の「ベンチャー→スモールビジネス」という事例で頑張っているケースはあまり聞かず、一度タイトな成長戦略が崩れるとVCからは「ゾンビ企業」とも呼ばれ、資金を使い果たすまで細々と営業を続け、結局倒産するケースが多いように思う。

ベンチャー・VC資金調達についてのいい参考資料:http://www.corepeople.jp/blog/2008/06/post-705a.html:Title

まとめ

個人的には、id:umedamochio氏も紹介している、ゴードン・ベルのプログラム記述形式(こちらに日本語訳あり→http://hiroya.typepad.jp/blog/2008/05/gordon-bell-643.html:Title)のような感じで、自分用の起業ルーチンをいつか整理して書いてみたいなと考えているが、ちょっと手間がかかりそうなので先送りしている。

ただ、もうちょっと一般向けに、先述の4つの選択肢の中で私が興味を持っている2〜4についての比較表を作ってみた。

ベンチャー スモールビジネス 社内ベンチャー
開始ハードル
成功確率
成功時報 巨大
失敗時リスク
経営自由度
ハードワーク度 巨大 任意 中〜大

実際には、これらのうち2者の中間的な形態もあるだろう。他にも大企業数社が出資して、大きな資本からスタートするような起業形態もあると思うが、ここがVCからの出資も受ければ3者の中間的な存在と言えるかもしれない。

なおベンチャーかスモールビジネスかというのは、個人的にはペンディングしておいて、もしも本当に起業することになった場合に、どんな分野でどういう事業計画を選択するかで、起業する形態を決めたいと思っている。磯崎氏のエントリー(http://www.tez.com/blog/archives/001189.html:Title)を読むと、ベンチャーの方がメリットが大きいような気もしてくるが、ここの情報収集は継続していきたいと思う。

起業家じゃなくて起業妄想家が作った「まとめ」なので、もし間違いや不足があれば、ぜひ指摘を頂きたい。

余談:池田氏・磯崎氏のブログエントリー応酬まとめ

池田氏自身も書いているが、池田氏ベンチャーとスモールビジネスの間の一番危険で中途半端な形態での起業へ参加したイメージを元に、ベンチャーやVCを語ってしまっているように思える。

投資と融資の違いは、会計的にはおっしゃる通りだが、経済学的にはどっちもinvestmentである(たとえば有名なSharpeの教科書Investmentsには"borrowing and lending"という章がある)。両者の最大の違いは、債務不履行になった場合に資産の残余コントロール権が債権者(投資家)に移転するかどうかという点だから、
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/7a1d3e01e0f7299c7de4c27c2c42bbbb:Title

特に、最後のエントリーでの上記の池田氏の言い訳はかなり苦しいだろう。追い討ちをかけるとしたら、投資と融資を「債務不履行」という条件で比較しているように読めるが、そもそも株式投資において経営陣は株主代表訴訟で経営責任を追及されるかもしれないが、投資家(株主)への「債務」という考え方事態が微妙だと思う。*3

末尾に簡単に両者の応酬を紹介しておく。論点のすり替えもあるような気もするが、それはそれで有意義で面白い。両者の結論は、

もっと「起業に賭けてみよう」というイケてる人がたくさん現れる社会になることを切実に望みます。
http://www.tez.com/blog/archives/001189.html:Title

というところで一致しているので、いつまでも妄想ばっかりしていないで、精進に励みたいと思う。

(アップしようと思ったら最後に磯崎氏から会計上の基本的な説明もあったので、こちらも追加)

*1:単に、いつも切れ味鋭い批判をする池田氏が、批判される側に回ってタジタジになっているところが面白いだけかもしれない。

*2:大阪勤務としては恵まれていると感じるだけであって、もしも東京勤務だったら同程度の給与で続けるのは結構微妙かなとも考えている程度の待遇で、そんなにいいもんでもない。

*3:先述の通り、ベンチャーとVCとの間の投資契約には株の買い戻し条項があったり、株主利益の最大化義務など、まったく債務がないわけではないと思うが、池田氏は無理な説明を続けているようにも見える