米国金融危機から実態経済の危機へ(中編)

私は経済や金融のプロではないので大きく外しているかもしれないけど、今回の米国発経済危機について、大まかに自分の考えを整理できたので、考えたところを書いてみたいと思う。

個人的には、こういった経済事情を考えずに外貨のポジションを作ったり、株で大きなポジションを取るっていうのは考えられない一方で、起業資金を増やすような大きな投資チャンスが来ていると思っている。

でも、経済危機全体を通した記事ってあんまりなくて、あげるとすれば「週間ダイヤモンド2008/10/11号」、あと別途書評を書くかもしれないけど「ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ*1ぐらいで、世界経済の先行きはあまりつかめない。

そういったわけで、私としても日々のニュースを評価するためのベースとなるシナリオの1つが欲しいというのがあり、素人ながら考えてみた次第なので、あまり信用されても困るのだけど、何かの参考になれば幸いだ。

長期予想の結論

これからの経済動向の長期(大胆)予想について結論から書くと、日本のバブル崩壊にくらべて米国経済危機の方が深刻な事態になると思う。世界規模で景気は低迷して実体経済も大きな影響を受けるだろう。

特に米国は、破産者や失業も増えて2,3年は明らかなマイナス成長の大不況になり、日本のような輸出国も巻き込まれる。大不況は10年という長期スパンにはならないと思うが、回復期に入っても米国の経済成長&消費レベルは、今よりは下がったままだろう。

世界の新しい枠組みとしては、おそらく最終的には米国の成長が下がった分の半分ぐらいが、活力がある振興国(含む中国)へ投資として回り、世界経済は伸びて行くと思う。

一番怖いのは米ドルやユーロの大暴落での世界経済のクラッシュだが、世界の国々が必要としている国際通貨は、信用毀損があるとしても経済規模を考えれば米ドル、ユーロ以外には選択肢はない。そのため、かなりのドル安にはなるだろうけど、暴落はせずに持ちこたえると思う。そして、強力な円高にさらされた日本も世界中へ追加投資をすることでバランスを取り、中国やオイルマネーも同様の動きをするだろう。

ただ長い目で見ると、ドルは継続的に下がり続ける可能性が高いと思う。米国債は値下がりして長期金利は高くなる。ヨーロッパ経済は米国の不良資産(債権)への投資ボリュームが異様に大きくて緊急事態に陥っているように見えるけど、ユーロ採用国がバラバラにならない限りは、長期的にはドルより高くなるだろう。

そういったところから、日本に必要なのは、破綻の連鎖を止めて世界を救うというポジションを担うとしても、できるだけ安値まで粘り、米国オンリーにならず、新興国も含めたワールドワイドな投資で稼ぐという方向性だと思う。東京三菱UFJは拙速すぎたかもしれないが、他の企業にとっても優良投資案件やM&Aのチャンスが来るだろうし、外国人スタッフを集めて富裕層向けのハゲタカファンドのようなものを今から準備しておくと良いと思う。

金融危機の台風一過、「天気晴朗ナレドモ浪高シ」のシチュエーションでの全力出撃が、日本経済にとってのターニングポイントとなるのが理想形だ。

ともかく、円高で輸出製造業の生産性が落ちる分を、こういった世界への投資展開で回復できるかどうかだが、米国投資銀行の残党を活用したり、ジャパニーズ商社のノウハウで、融資するだけでなく資本を取りにいければ、ある程度は成功すると思う。日経225はザラ場では7000円割れもしたようだけど、日本の株価の中長期の先行きに悲観的になる必要はないと思う。

輸出ウェイトが多い日本のGDPも2,3年は減少するだろうけど、GDPが落ちても破綻する企業もそれほど多くはなく、米国のように破産者や失業者が溢れるようなことにはならないと思う。個人所得も激減するわけではないので、法人所得は落ち込むかもしれないが、生活への影響は大きくはならないだろう。そして、2,3年後に世界不況が終息すれば、新興国への輸出も増え、収益もじわじわ回復すると思う。

以下、こういう考えにたどりついた背景について、詳細を続けてみたいと思う。

もういーくつ寝ると、GM破綻♪

「こうなってしまっては、誰にも止められない」 (c)オオババ様@風の谷。*2

今、極めて高い確率で発生するということが分かっているのは、前編でも書いた通り、米ゼネラル・モーターズ(GM)が経営破綻するということだ。GMのCDSは、直近の値はしらないが、10月10日付けのロイターのこちらの記事によると一時期6612bpまでになっている。これってGMのCDSは年間66.12%のプレミアムを払わないと引き受けて貰えないってことであり、破綻するのは決定的だけど、いつ破綻するかっていうゲームになっている。*3

ついでなんで、GMの決算状況をまじめに見てみよう。

決算期 2005.12通期 06.12通期 07.12通期 08.03Q 08.06Q
売上高 192,604 207,349 181,122 42,670 37,975
営業利益 ▲1,163 9,277 ▲4,390 ▲589 ▲12,476
最終利益 ▲10,567 ▲1,978 ▲38,732 ▲3,251 ▲15,471
純資産 10,258 ▲6,559 ▲38,160 ▲42,136 ▲58,040

単位はMilion $(100万ドル。1$=100円で換算すると億円とよみかえてOK。以下Mと略す)。まあ債務超過がどんどん増えていて、破滅に向かっているとしか思えない状況だ。

あと、これを確認した米Yahoo!のページでP/Lを確認していたところ、直近四半期の売上総利益(GP)が5,390Mのマイナスっていうのは、なんてこった! 微増している在庫*4を原価以下で処分したのか金融事業でロスを出したのかしらないけど、ベンチャー企業でもないとGPがマイナスなんていうのは、なかなか見られない数字だ。

B/Sの方を見ると、19,554Mと2兆円規模の現金類が残っているので、しばらくは安泰に見えるが、もはや営業利益を生み出す力はなさそうだし、売掛金が8,946Mに対して買掛金が67,470Mなので売上が減ると運転資金が減るという構造になっている。*5 現状、米国の自動車市況がどんどん悪化していることを考えると、このままだと来年早々にでもキャッシュ不足は避けられそうにない状況と考えて良いだろう。

これは社債の借り換えができないので長期的にキャッシュ不足に陥るというより、損益はともかくキャッシュが必要で、既に自転車操業モードに入っているように見える。自動車産業なのにね。

10月3日のFIFTH EDITIONのエントリーにもあるけど、こういった財務状況のGM他のビッグスリーへ、米政府が「環境対応車の開発資金の供給」という名目で政府保証の25,000Mの保証枠を提供したというんだから、まあ米国経済は巨大な不良債権の先送りをやってることになる。

「こうなってしまっては、誰にも止められない」のに。

こうして政府の保証枠の資金で生き延びる間に、10月20日付けのロイター記事では「日系メーカーにも打撃、GMとクライスラー合併決裂のシナリオ」という記事で合併交渉が進んでいる様子を紹介している。

ただ、仮にGMとクライスラーが合併して大リストラ大会をするとしても、この不況下では資産の売却も簿価以下でしか進まないだろうし、chapter11とか破産法の適用を回避しつつ復活を期すには、債務超過58,000Mに加えてリストラ費用も必要なので、10兆円程度の増資でもしないと長期的な信用回復は不可能だろう。そして、こういう数字になってくると、米国政府といえども1つの事業会社を救うために負えるリスクではないだろうし、再生支援するとしても、経営破たんからの債務減免は不可避だと思う。

日本でも不良債権の先送りがバブル処理のコストを押し上げたという話があり、例えば池田信夫氏も再三述べているが、どれだけ金融機関に資本注入をしても、減価が不可避な不良資産を明確にし、損失を確定しないことには、前向きな投資へと資金は回らない。


ところで、このエントリーには個人的に締切りを設けていたのだが、GMの2008.09期の四半期決算発表が、11月早々に発表予定となっている。

ここから理想的だと考えている進行は、GMがこの決算発表で降参して、クライスラーと同時にchapter11を申請して、政府支援を元に合併再生。社債はデフォルトになり、大量解雇が発生。失業率は上がり、クレジットカード破産も増えて、ローン破産も増え、各国で銀行の破綻も増えるという流れだ。

でも、まともな会社であればGM社債の損失は引当済みだろうし、何よりも早く破綻してくれないと、ずるずると損失が拡大するだけだ。GMがゾンビを続けるということは、取引先や債権者の負担、また政府支援の負担として、将来へのツケを増やし続けているだけだ。

そして、ここでの一番のポイントは、でもそんなことは世界中の投資家・金融のプロは当然知っていて、戦々恐々としているってことだと思う。GM破綻とそれに続く連鎖倒産で、はたしてどれだけの金融機関が倒れるのか、全員無事で済むのか。何が起るか分からないので、手持ちのキャッシュは多ければ多いほど良い。

大きな問題は他にもあるけど、だから、日本株のポジションなんか処分してキャッシュという話になっている部分はあると思う。

とこでCDSってどうなった

そう、このエントリーがなかなか書けなかった一つの原因はCDS損失についての実情がウェブでいろいろ調べても、良く分からなかったことがある。そうしていたところ、関連で1つ良いニュースがあった。

ロイター:米リーマンのCDS清算、支払額52億ドルにとどまる

400,000Mの想定元本で清算価値が9%弱なので一部では365,000Mの保証支払が発生すると言われていたリーマンのCDSの決済で、支払額が5,200Mで済んだので、CDSの問題というのは喧伝されていた(すみません、私も前編でしました)ほど大きくなかったということになる。というわけで、CDSはおそらく今回の金融危機では脇役の1つに留まるはずだ。

これは、ほとんどのCDSのリスクテイカーは別のリスクテイカーを見つけてリスクを転嫁していて、身銭で保証していたのは単純計算で2%未満にとどまるということだと解釈してよいと思う*6。別のリスクテイカーが見つかれば、その時のプレミアム料率で利益(損失)を確定させることができ、実質のリスクを排除できるが、その繰り返しで想定元本が増え続けたということだろう。またCDSプレミアムと社債価格を比較して裁定取引を狙ったケースもあるだろう。ただ、これらが成立するのは、転嫁する相手が経営破たんしないという前提に立った話だ。

そういった意味で、CDSの一番の問題点は、CDSのリスクテイカーが、リスク転嫁として別のCDSを契約したにも関わらず、転嫁した先のリスクテイカーが倒産しちゃったら、こっちも支払が履行できずに倒産だよという、「誰かが倒産したらみんな倒産」っていうゲームになっていることだろう。

しかし、ここはFRBAIGへ85,000Mの融資を設定した上に、さらに追加で37,800Mを融資して、とにかくCDSの大きなリスクテイカーはリーマン以外は潰させないという意思があるようなので、ある程度安心して良いと思う。

CDS発行残高が大雑把に50,000,000Mだとして、2%が実質のリスク負担で済めば1,000,000M、約100兆円という計算になる。倒産が発生するたびに負担が増えて大変だとは思うけど、すべての事業体が破綻するわけではないので、やっぱり脇役と考えて良いだろう。

ただ、ここでも、どこかが経営破たんしてCDS清算が発生するたびに、リスクテイカーが連鎖倒産するリスクに備えて「手持ちキャッシュを増やしておこう」という意思は働いていると思う。

あと、前編でも書いた通り、CDSがあったから流通できていたジャンク社債などは、CDSのリスクテイカーの信用低下やCDSのイメージダウンから引受け手がなくなり、貸し渋りと似たような状態に陥るような流れもあると思う。


長くなりすぎたので、ここで一旦切ります。多分、下記みたいな内容の後編へつつく。

  • とこでリーマン破綻ってどうなった
  • とこでサブプライム(住宅ローン危機)ってどうなった
  • 米国実態経済の大ブレーキの予測
  • その他、日米バブル対比

(アップ時期は、例によって未定です。勉強しながら書いているので、しばらく先になるかも)

*1:ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ」は本年4月に執筆・9月翻訳本刊行とちょっと古いけど、予想はかなり当たっている。

*2:オオババ様の正確な台詞ぐぐったけど不明。適当な記憶で書いているので間違ってたらご指摘下さい。

*3:年間66%の保証料ってことで、5年契約でトータル債権額面の330%ものプレミアムを払おうとする馬鹿はいないので、CDSの支払対象となるクレジットイベント発生時に社債の価値がゼロになると仮定しても、一年半以内に破綻すれば、早く破綻するほどCDSを買った人の勝ち、一年半を超えて破綻しなければ買い手側にどんどん損失が膨らむという、変なオプションになっている。

*4:在庫は2008.03期→2008.06期の3ヶ月で672M増えている

*5:単純計算で、仮に売上げが2/3に減って時間が立つと、売掛金6,000M、買掛金45,000Mになって、損益がゼロだとした場合、営業キャッシュフロー▲19,000Mでキャッシュ枯渇になるというような話。

*6:実際にはCDSの支払条件はいくつかパターンがあるようなので、差金決済ではないCDSが存在していると、上記の支払額より多いと考える必要があるかもしれない。あと、未払いのプレミアムも同時に清算されているはずなので、この分が支払から引かれていることも本来は計算に入れなければいけないはず。ただ、ここでは省略