米国経済と流動性トラップ
クルーグマンがケインズ的な大規模な財政出動を提案し、バーナンキのFRBは1ヶ月5000億ドルベースでドルの供給を続け、FRBの総資産は約2.25兆ドルに達している。
クルーグマンのブログに「Macro policy in a liquidity trap (wonkish)」というタイトル*1の記事*2があり、米国経済が流動性トラップに捕まっているのは間違いないというのが、クルーグマンやバーナンキの認識だろう。世界景気の先行きは相当厳しいと予想されるので、実生活的には大変になりそうだけど、知的好奇心の面では、日本の失われた10年に相当する議論が再度盛り上がりそうな予感で面白い。
流動性トラップ*3を脱出するルートは、いくつかあると思うけど、単純には需要を増やしデフレを止めることだろう。そのほかも含めて脱出ルートを大雑把に考えると、以下の通りになるだろう。
クルーグマンが「1」のルートでケインズ的な財政出動で需要増大を行うことで経済危機を脱出しようと主張するのは理解できるのだけど、失われた10年を生きてきた日本人から見ると、どうもしっくりこないような感じもする。そして、クルーグマンに恨み*4がある池田信夫氏が書いているように、そもそもインフレターゲットという、中央銀行がアホになるという形でインフレ期待を作る「3.」のルートを主張したのは、クルーグマン本人だ。
しかし、平均的にゼロ成長に近い均衡状態が続いていた日本*5と、正にこれから大規模な経済的波乱がおきようとしている米国では、取るべき手段が異なるのは当然であり、池田氏の批判エントリーはその点を華麗にスルーしていると思う。
ただ、私はネオリベ+社会福祉重視派なのでクルーグマンの提言には反対だ。失業者が困窮するのを防ぐという福祉的な面で、低給与の職を創出するという意味での財政出動(公共事業)は良いと思うけど、特にGM救済には絶対反対だ。米国経済の復活には、基本的には一度大幅なマイナス成長に落としてから、底を打つタイミングで、いっきに「1」「2」「3」「4」の全ルートでプッシュするのが一番良いと思う。
この考えの根本には、米国の信用膨張バブルが膨大であったため、その反動である今回の経済危機による信用収縮の規模が巨大すぎて、GDP的にもデフレ的にも一旦大きな調整をすることは避けられないと考えているということがある。今年・来年ぐらいに無理に大規模な財政出動をしても、流動性トラップからは脱出できずに、いたずらに政府債務を増やすだけではないだろうか。
米国のGDPの大きな部分を占める金融・保険業では産業規模は縮小して、市況は悪化して、さらにバブル相当部分が失われることでの生産性低下は避けられないだろう。そして、GMに代表されるような生産性が低く財務的にも不健全な製造業も、長く生かせば生かすほど、米国経済の足を引っ張ることになる。
このGM救済の問題は、日本では建設業が景気対策で生き延びて、今頃になって公共投資が減ったので倒産しはじめている状況と同じ状態を作ることになると思う。本来は「2」の生産性向上を実現するためにも、生産性が低い産業を救済するべきではなく、一旦破綻をさせて余剰な労働者を解放してから、生産性向上を目指したり、新規事業の創出を目指すべきであろう。
(金融機関は破綻させると信用収縮を加速させ、デフレ圧力を増やすので、これを救済するのはやむをえないと思うけど)
あとは、池田氏も述べているように、グローバル経済に与える影響、特に世界基軸通貨であるドル信任という部分での影響はよく考える必要があると思う。このドル信任ゲームがあらぬ方向へ行くと、1930年代の保護主義化・ブロック経済化による世界恐慌悪化どころではなく、安定した決済通貨がないから貿易が成立しないという形で、巨大恐慌が起る危険性を秘めていると思う。
個人的には、このドル信任ゲームの行方が、経済問題での最大の関心事になっているのだが、当分先行きは分かりそうにない...。
2008.11.18 誤字訂正。あと池田氏にリジェクトされたのか、Trackback pingが飛ばなかったのか不明なので再送信。池田氏の記事見て朝日新聞買ってきて書いたので、リジェクトだとちょっと悔しいなぁ。どっかが間違ってるのかも。)
参考エントリー
- http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/1030466313fe91ad865d0bfa2b9c9f1a:Title
- http://krugman.blogs.nytimes.com/2008/11/15/macro-policy-in-a-liquidity-trap-wonkish/:Title
- http://d.hatena.ne.jp/okemos/20081116/1226805638:Title (上記の和訳あり)
- http://d.hatena.ne.jp/thumbelina/20081117/p1:Title
- http://d.hatena.ne.jp/T-norf/20081106/BernankeCannon:Title
- http://d.hatena.ne.jp/T-norf/20081030/GMcrisys2:Title