デアゴスティーニ商法が行動経済学的に凄すぎる
先日、「普段の暮らし」への経済学の応用をテーマとした、カジュアルな文庫本を読んでいて、ふと、デアゴスティーニについて昔から感じていた疑問を思い出した。
デアゴスティーニって、微妙な書籍を売ってる割には、テレビCMをバンバン打っていて、なんだか儲かっているような感じがする。でも、どうしてこんなビジネスモデルが成り立つのだろう。
このデアゴスティーニの商売についての疑問の答えが、この文庫本で説明されているような感触がしたので、1つ1つの項目を確認してみると、出てくる出てくる。全部で5つもあった。
なかなか面白い考察ができたので、以下紹介してみようと思う。
まず、読んでいた本はこちら。
あなたがお金で損をする本当の理由 (日経ビジネス人文庫 ブルー な 6-1)
- 作者: 長瀬勝彦
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2010/01/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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タイトルからはあまり想像できないけど、経済学的な根拠にもとづいて、日常生活での損得の話がいろいろ展開されている。特に第1章(p18〜p72)は行動経済学をベースにした内容となっていて、とても面白い。
本書は商売人側ではなくて消費者の側に立っての損得を説明しているが、逆手に取れば、効率よく儲けるビジネスモデルを考える上でのヒントにもなると思う。まあ、こういうのは、やりすぎると儲け方の中でも、お客様から奪うというスタイルになってしまい、個人的には好きじゃないところもある。でも、実際に起業したとして、良い商品・サービスの提供を続けるためには、しっかりと収益を確保することは最重要課題なので、過剰にならない範囲で上手く応用できると良いと思う。
さて、ミニ書評はこれぐらいにして、以下本題。デアゴスティーニの商売との関連を順に説明していってみよう。
1.希少性の原理(p22)
デアゴスティーニは、数十冊の書籍がシリーズとなっているものの、1冊づつ定期的に発売される。実際にはバックナンバーも購入できるようだが、発売しているその号、特に創刊号を逃すと、買い揃えるのが困難になるという「入手の希少性」のイメージがある。
これは、人間いつでも買えるものはなかなか購入を決断できないが、今しか手に入らないと思うと、ついつい高額かつ不要なものでも、思い切って購入してしまうという特性があるという原理だ。
デアゴスティーニはあえて1号づつ出して予定通り完結するが、この雑誌のような発行形態が「希少性」を生み出していて、購入を決断させる面があると思う。
2.アンカーに縛られる(p48)
デアゴスティーニの場合、1冊の値段、特に創刊号特別定価の価格が「アンカー(基準)」になり、全巻を揃える場合の高額さを合理的に計算できなくなってしまうような購入者も多いと思う。
アンカーについては、全く関係がない数字、例えば「電場番号の末尾2桁」と「アフリカの国連加盟国の数」といったものでも、実験的にアンケートを行った場合、前段の質問で回答した数字に引きずられて、後段での回答との間に相関が出ることが、この本でも解説されている。
人間がいかに非合理というか、何か最初にキャッチした基準(アンカー)を元に、無意識に曖昧な判断を下すということは、ビジネスを考える上でも重要な要素だと思う。
3.授かり効果(p50)
人間は、自分の持ち物がかわいいという特性を持っていて、これを授かり効果と言う。例えば自分の持ち物の価値は市場価格より高く考えてしまって、売却時に高値をつけて売れないことが多くなる傾向であったり、手元の宝くじを、なんとなく他人の宝くじと交換したくないというような、非合理な心理特性がある。
デアゴスティーニは、まあ1冊だけ買って、よほど内容が良くなければ止めようと思っていたとしても、この「授かり効果」が発揮されると、手元の1冊が価値があるものに無意識に感じてしまい、ついつい2冊目以降も買い続けて、コンプリートを目指すような人が増えるということもあると思う。
4.現状維持バイアス(p55)
これは単純。人間は、現状維持を好むという特性を持っている。数冊買ってしまえば、あとは多少品質が悪くても、もう惰性で買い続けるという人も多いだろう。
5.埋没費用の錯誤(p122)
これは行動経済学と関連の第1章ではなく、第2章とマッチした内容。この埋没費用について、デアゴスティーニを例えとして説明してみよう。
シリーズを10号まで購読したとして、1冊平均1000円として1万円をつぎ込んだとする。
ただ、まあ冷静になって考えてみると、その10冊合計の価値は3000円しかないと感じ、このシリーズはイマイチだなと判断したとする。それでも、この埋没費用を含めて考えてしまい、その10冊分には「支払った1万円分の価値」があるという錯誤をしてしまう人は多いと思う。
特にパーツ付きで全巻で完成というタイプのシリーズだと、本来はこの時点で既に7000円の損が確定していることには気づかず、「埋没費用の錯誤」をしてしまい、ここで止めると1万円を損すると考えてしまい、ずるずると続けてしまうという話だ。
でも合理的に考えれば、「止める」という新たなアクションをすることで、本当に損をする(無駄になる)のは、手元のパーツの現在価値である3000円分だけだ。
この「埋没費用の錯誤」による継続という要素も、デアゴスティーニのビジネスモデルを考える上では、結構大きいのではないかなと思う。
6.コンプリート欲求
これはオマケで、冒頭の本とは関係なく考えたポイント。おそらく、人間には、シリーズは全て揃えたいという、収集への原始的な欲望があると思う。
ボードゲームのモノポリーみたいに、独占することで明らかな利潤があるという場合に限らず、手元に一部を揃えてしまったあとは生理的に「欠けている状態」が嫌であったり、揃えるという行為そのもに快感を覚えてしまい、ついついデアゴスティーニのシリーズ全巻揃えてしまう人も多いような気がする。
これも、おそらくは行動経済学の分野で、実験で実証できるのではないかと思う。(門外漢なので間違ってたらすみません)
7.在庫ロスのミニマム化
最後にもう1つ、これは行動経済学とは関係なく考えたポイント。
デアゴスティーニは1号づつ配本し、また、いろいろな理由もあってコンプリートを目指す人が多いと思うので、創刊号、またその後の各号の売れ行きを見れば、次号がどれだけ売れるかは正確に予測できると思う。
これは定期購読が多い雑誌では普通の話だと思うが、毎号パーツを中心に販売しているケースでは、製造業として在庫ロスを極小化できる要素になっていると思う。これは、行動経済学とは関係ないけど、営業利益率アップという意味では、けっこう大きいのではないだろうか。
まとめ
個人的にはデアゴスティーニを買ったことはないが、恐るべし、デアゴスティーニ商法。どこまで狙って考えたかどうか分らないけど、行動経済学的にみて超合理的なビジネスモデルになっている。
もちろん好きな人にとっては、たまらない内容のシリーズもあって中身で勝負している部分も大きいとは思う。でも、デアゴスティーニは多くの国で事業展開しているようで、こういうビジネスが世界的に成功するというは、ちょっとした驚きを覚える。
でも、人間っていうのは非合理的な生き物で、ビジネスを考える上で行動経済学が重要だというのは、忘れてはいけない事実だと思う。
今回のエントリーは、今朝、目覚ましテレビで「付録付き書籍」の特集をやっていたのを見て、暖めていたネタを元に一気に書いてみたのだけど、思いの他いろいろ出てきて、自分でも勉強になった。
一見、どうして儲かっているのか分らないビジネスを分析してみるというのは、なかなか面白いし、ビジネスモデルを考える上では、とても勉強になるのではないだろうか。
マーケティングとか行動経済学の読書もしつつ、思いついたら、また分析してみたいなと思う。
P.S.
いつも読ませて頂いているブログでも、ちょっと前に行動経済学関連の書評エントリーがあった。こちらは、カジュアル系ではなくビジネス系の書籍だと思うけど、興味がある方はどうぞ。
http://papativa.jp/archives/1935
あと、デアゴスティーニといえばpbh氏の名エントリーがあったので紹介しようと思ったけど退会されてページもなくなっていて、とてもとても残念。一応、ブクマページをご紹介。
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/pbh/20080927/1222529602
ほかにも、行動経済学関連で昔読んで面白かった記憶がある新書も参考までに、ご紹介。
- 作者: 友野典男
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/05/17
- メディア: 新書
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