起業バカ

この「起業バカ」は2005年4月に発行された本だが、このブログを作るときから必ず書評を書こうと決めていた一冊だ。起業家にとって役に立つ本だと思うし、「起業の失敗事例を中心に扱った本」という意味で類書が少なく、存在価値がきわめて高いと思う。

起業バカ (ペーパーバックス)

起業バカ (ペーパーバックス)

筆者の渡辺仁氏は本書p22によると「この14年、ニュービジネスやベンチャービジネスの成功例、失敗例を2500社ほど取材し、ビジネス雑誌に300本ほどのレポートを書いて来た」という経験をした後に、2002年に雑誌出版という分野で自身も起業し、結果的には失敗して「借金の山」を築いたという経歴を持っている。この経歴だけで読む価値があると思うが、内容も多彩だ。

まず、本書に登場する事例だが、詳細が書かれていないのが残念な面もいくつかあるが、失敗例が22社挙げられている。中には最終的には大躍進したユニクロも含まれるが、有名なIT企業もあれば、無名の企業や詐欺まがいの会社もあり、ほとんどが倒産した会社だ。そして、第6章では渡辺仁氏自身の体験として、以下のような内容も語っている。

  1. 過去の成功体験から自信過剰となり、
  2. あとから考えれば無謀だった事業計画で起業し、
  3. 窮地を挽回しようと不動産仲介で運転資金を捻出しようとし、
  4. いろいろあったけど結局騙されて、万事休す。

また、基本的なところとしては、フランチャイズ本部の暗黒面や、起業家にたかる起業ブローカーなどの話についても詳しい。他にも詐欺の話もあり、まあ当たり前というか、そんなことは自分に関係ないと思えるような話も多いが、そういう箇所は読み飛ばしてもいいし、失敗や騙された体験談は1度読んでおくだけで、同じ轍を踏まなくなる可能性が極めて高くなるという点だけでも、大きな価値があると思う。

残念な面としては、数字がおかしい。冒頭p12に出てくる「この6年でベンチャー3市場へ上場した企業数は729社。上場予備軍は1500社。一方この20年で新規に会社を興した数は約352万4000社。単純計算では成功したのは1580人に1人ということになる」というのは、計算の前提が意味不明で、たまたま入手できた数字を足したり割ったりしているだけで、何の単純計算にもなっていない。p244でも2つのグラフを挙げて「では、これをベンチャーに絞ってみよう。」からの下りも、両方のデータの前提が完全におかしく解説になっていない。

ただ、これらの点を差し引いても、価値がある本だと思う。特に、なんとなく起業したいなと考えている人には、ぜひお勧めしたい。

なお、このエントリーは小飼弾氏が、http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51001670.html:Title="本書と同じ著者の新作「起業のワナ」の書評"を掲載していたのを見て、あわてて書いた。本書の続編の「起業バカ2」も含めて2周遅れだが、いずれ続編の書評も掲載していきたいと考えている。


「起業バカ」書評つながりでのトラックバック

◆satoshi氏も内容には好感触。「この本を読んで世の中ほんとに甘くないなぁと」との感想
http://hlamworks.stridefootwear.com/?eid=161892:Title


◆ブログInfociergeでも「成功者になりたい方は必読」と絶賛
http://infocierge.livedoor.biz/archives/20080574.html:Title


◆自身も塾を起こした起業家の桃太郎氏は「欲の皮がつっぱった人だと、「ワナに落ちる」にかも」と共感
http://blog.livedoor.jp/doorsyakaijin/archives/29974321.html:Title


◆bwbtx230氏も「起業の前に読んでおきたい.」「現実を捉えたこのような現実的書籍を出版された筆者には敬意を表したい.」と高評価。
http://blogs.yahoo.co.jp/bwbtx230/51918485.html:Title


清谷信一氏は、起業を勧めない姿勢に賛成。「起業バカ」とセットで自著「弱者のための喧嘩術」を推奨。
http://kiyotani.at.webry.info/200505/article_26.html:Title


◆株式会社ドコイコCTOのふっきー氏も大変勉強になるとのことで、「これを読めば起業バカにならずに済みます。起業ブームにSTOPな一冊」とのこと。
http://blog.mobilecommerce.jp/?eid=206587:Title


id:tipitu氏は「品位のなさに苛つく」という第一評価。ただ筆者自身も失敗している点も踏まえて、納得。
http://d.hatena.ne.jp/tipitu/20080205:Title